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快速列車、終着綺麗往き
「きょうも人がしにました」 某所駅で飛び降りによる遅延のアナウンスが鳴り響く。 「10分後運転を再開します。」 子供は首を傾げて 「どびおりってなに?」 その疑問は空気に散り、答えられるわけもなく 私は500mlのミネラルウォーターを飲み干した 今日も電車は走る。 六両編成。 悲哀、忘却、黙殺、沈黙、見えない、聞こえない になります。 電車の隅の椅子に座ると窓の景色が動いていた。私は止まって動かないまま、自分の掌を見詰める。 「何も変わっていない。」 スーツを着て電話で相手先の会社に謝罪している男 スーツを着ながらスマホでニュースチェックする女 私は何も変わっていなかった。 流れる景色は変わる。 何も無い木々の群れ、白く染まった畑から 人が通る街並み、ネオン街へ 「おねーさんはどこにいくの?」 「わからんな」 「おとなってなあに?」 「自分を守りながら自分を殺す人のことかな」 子供は椅子の背にお腹を向け、窓に夢中になる。ぶらぶらと揺れる小さな足。それを見たスーツが子供を蹴る。 「ごめんなさい」 「おとなになれなくてごめんなさい」 スーツたちは消えてゆく。 夕陽は電車に融けてゆく。 「あの電車が紅いのは誰かを轢いたからだよ」 笑う大人の冗句が聞こえる。 きっと電車が紅いのは 誰かが泣いてる目をしているからだ。 「かえらないの?」 「そっちこそ」 子供と会話をする私たち。 「かえらないの?かえれないの?」 「かえりたくないかな」 「うん、わかんない」 「それでもさ」 「うん」 「ここからの景色って綺麗じゃない?」 「きれい」 「私、ずっと」 「それはだめ」 届かない景色。届いて欲しかった景色。 手にしたかった景色。手に入らなかった景色。 空模様を描いたスノードームが揺れる。 空はで青と赤が闘っているかのようで恐ろしくも厳かで茜色と呼ばれた。 今日も夕陽が電車に融けてゆく。 「次は電車は〇〇駅行きです。」 普通のアナウンスが聞こえる。 あの子供はもう居ない。 空から眺める電車は悪い気はしなかった。 赤く赤く染まった色。 散って行った肉片、あれは 別のわたしだ。 行こう。這いずってでも。 「次の電車は現実行きです。お忘れ物なきようご注意ください。」
快速列車、終着綺麗往き ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1200.9
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 2
作成日時 2021-03-05
コメント日時 2021-03-11
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合ポイント | 2 | 2 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 2 | 2 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
即興で返詩を。 今日も電車は走る。 六道輪廻。山手線。 天、人間、修羅、畜生、餓鬼、地獄。 今日も人が死にました。 目の前を往く山手線。 手を合わそう。 行き交う人もいつしか乗り合わせる山手線。 どの車両に乗り合わせるか、まだわかりもせず。 「あなたはどこにいくの」 合掌 「オトナとは」 西に行くのだ。東海道線の五十三次の向こうに。 「ごめんなさい。オトナになれなかった」 懺悔しよう。 いつかは乗れる新幹線に、今度こそは乗れるように。 今は山手線の円環を回ろう。 天道か人間道の車両に足を踏み入れて。 車両が赤くなるのは西日へ憧れ。 「帰るの?」 帰ろう。今は有漏路から無漏路に帰る、一休み。 「うろじ?」 浮世のここから、 「むろじ?」 仏のいる西へ、いつか往く。 「ここにいたいけど」 燃えている。この駅舎も山手線も燃えている。 いつか新幹線に乗り込もう。 遥か五十三次の果てに共に行こう。 死ぬ事が仏になるわけではない。 苦しみを、自分と皆の苦しみを無くして、仏となる。 空には時に七色の雲が舞っている。 いつかどこかの誰かが新幹線のグリーン車に乗車した。 行こう。這いずってでも。 「次の電車も回り続ける山手線です。お忘れ物なきようご注意ください。」 道だけは心のままだと忘れずに。 山手線は回る。
1死とか、飛び降りとか、マイナスな言葉を使いつつ最終的に残る印象がマイナスではない(というべきか、ただのマイナスではない)感じが面白いと思いました。「わたし」が飛び降りたのは間違いではなかったと思います。
1即興詩ありがとうございます。どんなに死んでも電車は回り続ける。輪廻のように。例え他人を何度轢いても何事もなかったかのように回り続ける。そう考えると電車って不思議ですね。コメントありがとうございました。
0コメントありがとうございます。今回は大人になれなかった自分、ただそれを見つめる自分、回り続ける電車、大人の階段、など様々な要素で構成されております。と言いながらも私が思い浮かんでいた構成はただ夕陽の中でパーカー姿の子供がぼーっと座っている、それだけでした。
0コメントありがとうございます。 今回は夕闇の電車と共に大人になるということは自分を殺すことなのかもしれない、などと色々考えているうちにこんなことになりました。 ここに出てくる子供は誰なんでしょうね。書いた本人が言うのもなんですが覚えていません。
0正直電車に乗ることがあまりないので本当に「とびおり」があるとはあまり考えたくないんですが、詩の雰囲気を感じる限り結構あるんだろうなと想像します。
0普段、通勤で電車を使用していますが路線にもよりますがまあまああります。特に連休明けの月曜日が多いです。そんな中、同情も何もなくイライラしながらまた人々が何とも言えない切なさを醸し出しております。
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