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父の、からだ
夢で会った人に 「またあした」と別れを告げて 誰とも顔を合わさずに支度をする 「いってきます」の声に 隣の部屋から母の「いってらっしゃい」だけが かえってくる 玄関の戸を開けようと 珍しく 父が新聞を取りに ついてきた 「俺、決めた。2035年に皆既日食が日本で見られるから、それまで、85歳まで生きるって」 車に乗り込むまで伝う塀は ただただ汚かった (ある時、母は父の傷を見つけた。セックスでもした時に見つけたのだろうか。この傷が何であるか、母は父に問ってみたが、父はわからなかった。ただ、小さい時からあった傷だという。それに付随するのは、一時期だけ祖母と離れて暮らしていたという父の記憶である。その期間、父は祖母から離れてどこで暮らしていたのか。それを知るものは、今、生きているのだろうか) 父が泣いた、らしい 65歳になるまで、自分に、弟が、いることを、知らなかった、から、ではなく、それを、祖母、と、叔母、に、隠されて、いた、からだ 帰宅すると 居間に置いてあった 新品未使用の 高圧洗浄機 中古屋で 両親が 一目惚れして 買ってきた そうだ (山から降りてくる血を、脈々と、ただ脈々と、繋ぎ、繋ぎ合わせて、今日まで生きてきた父の背中に、傷がある、そのために、海風を、肌に沁み込ませて、育ってきた父は、海のないここで、僕を育ててきた、体操着が盗まれて、鬱ぎ込んだ僕に、校長先生が体操着を届けてきたが、よくあることですと、答えた担任に、ぶちぎれた父のおかげだ、どれもこれも、後になってわかることだ、体操着の行方も、父の傷も、母との出会いも、弟がいることも、ぜんぶぜんぶ、後になってわかることだ) そふがしんだ から ちちがないた から ぼくがないた からだ 休日に 高圧洗浄機を操る父 と それを見守る母 がいた から、だ 明日からの帰りに 家に入り込むまでの塀は ただただ綺麗になっている 「おちろ、おちろ、ただひたすらに、おちろ、そして、しるせ、しるせ、ただひたすらに、しるせ、ついには、その、みゃくみゃくと、みゃくみゃくと、つないできた、ち、を、あるいてゆけ、ただひたすらに、あるいてゆけ!」 父がいる からだ 僕がいる からだ
父の、からだ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 943.5
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-09-06
コメント日時 2017-09-12
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
ファミリーヒストリー(虚構であるのか、実話であるのかは問わないとして、ファミリーストーリーでもある)を繋いでいくものは、記憶なのか、血脈なのか。 血/地、~から、だ/からだ・・・の掛詞。 汚れた塀を洗浄する、ということ。それは、汚れた歴史を洗い流す、ということでもあるのか・・・〈ただただ汚かった〉としか表現されない〈汚れ〉ですが、たとえば落書きであるとか、洪水の痕であるとか、卵を投げつけられた痕、とか・・・そうした具体性が必要だ、という事ではないのですが・・・高圧洗浄機で洗い流さずにはいられない何か、があるはず。息子を精神的に追い詰めるような、何か、である、とか・・・耐え難いなにか・・・その辺りが、もう少し伝わるように描かれていると、後半の伏線となったかな、と思いました。
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