箱の蜜柑をひとつ
みずみずしい果肉に親指をうずめる
幌は陽光を宿し
円やかな発光に
洗濯物を取り込む背中は茫として
影が胎児のように揺らめく
空いた腹を温める炬燵の
中で犬も丸くなっている
根を下ろす睡蓮を
深くへ 深くへと 沈めて
膨らんで 膨らんで
ひらく
匂いは部屋中に浸透し
うっとりしていると
賑やかな話し声も遠くなる
教室の隅、窓側の席は
日当たり良好で
わたしは少しキズついていて
そしてとても健康だった
薄皮を破らないように
実を分ける手は優しい
果汁はシミになるから
こぼれたらはやく洗わないと、
(伝染病っておそろしい)
秘密がみんな知れてしまう
じょうずなハートの折り方を知らなくて
メモをぐちゃぐちゃにした
指先は執拗に匂う
いつの日も
真っ白なシャツを着て清らかに
美しくありたいと願っては
落としきれずに隠していた
そのために、
わたしたちは校則を守っていた
水の底から
あぶくが上がる音がして
深煎りのいい香り
テーブルのうえには
マンダリンの睡蓮
ブラックコーヒーに波の輪を浮かべて
カステラをひと切れ食べた
作品データ
コメント数 : 2
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お気に入り数: 2
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作成日時 2021-01-17
コメント日時 2021-01-22
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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可読性 | 0 | 0 |
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技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
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2024/11/21 22時48分47秒現在
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もなかさん 過分なお言葉をいただきまして本当にありがとうございます。 やや内側への視点が強いこと、選語や( )部分のご指摘やご感想、とても嬉しいです。 詩は半分くらい感覚でしょうか……狙って書いているところもあります。いろいろ想像できる要素があると楽しいなぁと思って書いています。正直なところ、それが滑っていないかドキドキしていることもあります。 色々と大変な世の中になりました。お体にはお気をつけてお過ごしください。この度はお読みいただきまして本当にありがとうございます。
0沙一さん 『とめどなく詩であることを感じさせられる文体』とのコメント、大変恐縮です。 例のワードに関しては、私も躊躇が無かったわけではありません。なんとなく不謹慎な感じになるかな……などとも思いました。けれど、未来、これを読んで、そういえばそんなこともあったな、と懐かしく思い出すかもしれないと思って記しました。 その部分が(どのような理由であれ)評価いただけて嬉しいです。 お読みいただき本当にありがとうございます。
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