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In The Night
誰しもがこの夜の擬人化を試みては、くだらない形容動詞を当てはめようとする。しかしながら、大都市の電光の飛沫や、文明の寿命よりも永い距離といった事物に阻まれて、誰ひとりあの夜空の冷たい地肌に触れることはできない。せめてもの悪あがきにと、人工衛星で真鍮色の傷をつけてみても、無声映画のコマ送りより速く消えてしまうし、星雲の群れが放つ光子の波の、億年単位のディレイは、いかなる天啓や隠喩も含まずに気層の裡で揺らいでいるだけだ。そんな徒労にも似た茫漠さを忘れたくて、風俗街を満たす有象無象の情報に気を紛らわせたり、交差点の大型ビジョンに映る美男美女を連れ合いにする妄想に酔い痴れたりした日々もあった。が、それでもやっぱり、結局のところ俺は、俺達の頭上を覆うあの深淵の、無限の拒絶に未だ恋い焦がれていて(と同時に怖れてもいて)、缶酎ハイを片手に灯の絶えた飲み屋街の路地をほっつき歩き、雑居ビルの稜線でもって矩形に切り取られた夜空を左手で掴もうとしては、バランスを崩して左足をドブに突っ込んだりするのだ。
In The Night ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1160.1
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 30
作成日時 2021-01-02
コメント日時 2021-01-11
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 6 | 6 |
前衛性 | 3 | 3 |
可読性 | 6 | 6 |
エンタメ | 4 | 4 |
技巧 | 5 | 5 |
音韻 | 3 | 3 |
構成 | 3 | 3 |
総合ポイント | 30 | 30 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 3 | 3 |
前衛性 | 1.5 | 1.5 |
可読性 | 3 | 3 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 2.5 | 2.5 |
音韻 | 1.5 | 1.5 |
構成 | 1.5 | 1.5 |
総合 | 15 | 15 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
初読で「俺」の夜への恋い焦がれ方を好ましく思いました。 ー人工衛星で真鍮色の傷をつけてみても、無声映画のコマ送りより速く消えてしまうしー ー雑居ビルの稜線でもって矩形に切り取られー といった表現が個人的に好きです。 ただなんで夜に目を向けてるのかはよく分からず、都市生活からの逃避?いや夜の茫漠さにむしろ恐れをなしてもいるのか、としばらく考えさせられました。 日々を都市ビルの山々の中で暮らしてても、そんな暮らしをふと一歩離れて見つめてみる、そんな時に目が向くのが夜なのかなと思いました。生活や世界や色んなものの「それ以外」が夜。だから言葉で捉えられず、ビルの稜線で切り取られるそれ以外としてしか捉えられない。 そんな時の心情は長い間耐えられるものじゃないけど、そこに今の生活に無い何かがあるんじゃないかと期待する向きもある。だから「俺」の言葉に惹かれたのかなと思います。長文失礼しました。
1夜の街を歩きながら独り、悶々と考えたことをそのまま紙に起こしたようなライブ感が、この時期の夜の雰囲気によく合う作品ですね。
1コメントありがとうございます。 現在の地方都市という「時間と空間」のなかで僕なりの憂鬱を表現してみました。
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