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うんちが臭いのでニューヨークへはいけない
1 オオキンケイギクが咲いている。僕はアスファルトの上を走っていて、隣を走る車は僕よりもずっと速い。空は珍しく晴れている。脇腹が痛い。 2 ニューヨークに憧れても、ここは日本の田舎で。都会へ出るには電車に3時間乗る必要がある。駅まで歩いて30分。億劫だ。アパートの一室には本とCDがぎっちり詰まった本棚があって、その全てに煙草の匂いが沁みついている。炊飯器はもう28時間も保温状態だ。 3 芸術の意味とかはどうでもよくて、ただ時間を潰すために眺めている。美術館の清潔な雰囲気は僕のような人間を追い出している。周りの人間をなるべく見ないように、僕は意識を絵に集中する。細部への注視。強い視線にはある種の魔力がある。邪視。 4 靴に穴が開いているのを見つけた。僕は空腹だ。お金があれば食べられたはずの何かを通り過ぎて帰る。無数の足音と声のなかに神様のそれがある。ラマ・サバクタニ。ふらふらと、路地を歩けば腹が鳴る。もう飽きた。 5 カップ焼きそばは三日目から味がしなくなった。自分のうんちが臭すぎて耐えられない。電池の切れた時計が同じ時間をさしている。僕は仰向けになって天井を見ている。この部屋の最も低いところにいる。便所の換気扇が回り続けている。 6 音楽はいつも軽薄で、僕は自分の身体がすっかり不感症になってしまったことを知った。脱皮不全の蛇。床から起き上がることができない。小さな画面には何かの動画が流れ続けている。繰り返し繰り返し。僕は微動だにしない。布団の中があたたかいのではなくて、世界のすべてがつめたいのだと思う。どんな姿勢でも、何をしてもしなくても辛い。 7 ニューヨークには一生行けないことになった。僕は穴のあいた靴を履いて走りに行く。外の空気の清々しさが、忘れていたねぐらの臭さを思い出させる。自然が美しいのではなく、自然でないものすべてが臭いのかもしれない。僕の嗅覚はもはや機能しない。気分を嗅覚として知覚している。 8 オオキンケイギクが外来種であることを知った。今や路傍の花のほとんどが外来種なのだ。この花はよそから来て、この地を征服したのだ。見よ、この誇らしげな顔。これこそが自然の美しさ。 9 臭い部屋、自慰の痕跡。世界の最も低いところがここにある。埃を被った聖書。洗い場に溜まったフライパンと食器。僕。
うんちが臭いのでニューヨークへはいけない ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1336.3
お気に入り数: 2
投票数 : 1
ポイント数 : 9
作成日時 2020-12-29
コメント日時 2021-01-02
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 3 | 3 |
エンタメ | 3 | 3 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 9 | 9 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 3 | 3 |
エンタメ | 3 | 3 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 9 | 9 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
実践躬行とちゃんと纏めて有られて、 雰囲気も、状態も、気持ちも、颯爽と感じる事が出来嬉しさが有りました。 私も纏まった事を言おうと思いますが、雅量優しく綴られて居るように見栄えがし、&様の詩嚢が気になりました。思想等お聞きしたくなりました。
1てんま様 返信遅くなってしまい申し訳ございません。嬉しいコメント、ありがとうございました。 僕の思想を形作っているのはフランスの思想家バタイユ、日本のダダイスト辻潤、それとイタリアの小説家カルヴィーノらの作品群だと思います。 身体と世界との間を取り持ちつつ、現実といかに闘争していくかを常に問題にしています。
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