今日だけ日記を書いてみようと思った
変な思いではある
私は日記というものをよく書いたことがあるから
でも思ったのだ、今日だけ、と
これが錯覚的な強調だとしても
本当の思いだ
人はなぜ日記を書くのか
過去や現在や未来を検討したいから
或いは何か貴重な事を忘れないように
それほど私は今日目一杯己の人生や身辺を顧みただろうか
それほど私は今日特別な経験をしただろうか
うわべではそんな気はしない
でもたぶん心の深い所ではそうだ
今、心はとても重く、かつ空しい
どんな幸福な事柄も
心の中では闇の色合いを帯びて包まれる
上階の部屋を出て
廊下から町を眺めると
数知れぬアンテナが
際限なく大きい白い空に向かって空しくも届かないで
平野の果てまで低く立ち並んでいる
いつも通る曲がり角の木立が今日も美しく見えて
そばのバス停からバスに乗る
休日の今日には
国道沿いの写真館が賑わっている
そこに地上の明るい幸福を見る
考えすぎになって暗部を見ようとすることは
しない方がいい
坂の上には小さな模型店があって
細々と命脈を保っている
現し世のレストランでは
昼盗人たちが豪奢な食事をしている
それを目にして何も思わないのが良いのだ
夕方になると
高架橋の下の広場に
少年たちが自転車で集まる
そう、私は今日特色あるさまざまな日常の中を通過した
そんな日常が非常な事をたくさん思い起こさせた
それらはまだ混乱していてとりとめもない
私は焦燥感を抱きながら時計を見る
そのうちどうしても喪失という迎えが来てしまう
その前に収穫を終えなければならない
私には失っている輝きがある
霞んでしまった登場人物たちの像を再び見出そう
覚束なくなった私にまた確かな輪郭を刻もう
分からなくなった語る意義をもう一度建造しよう
冷たくなってきた
ポケットが増えた
なんとなく
心の空き家に再び灯がともるよう願いながら
私は日記を書き始める
作品データ
コメント数 : 4
P V 数 : 1164.0
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2020-11-24
コメント日時 2020-11-26
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
閲覧指数:1164.0
2024/11/21 23時14分39秒現在
※ポイントを入れるにはログインが必要です
※自作品にはポイントを入れられません。
整頓された日記には芸術性があり、芸術の似た事をこの詩により発見させて頂きました。文章も美しく感じました。
0かっこいいですね。高名な作家の日記の序文みたいなテイスト。でも、こういう出だしで始めた日記は始終この格調を保たなければ狂っちゃいそうで大変そうだから、ぼくが日記を書くとしたらもっと肩肘張らない文章にすると思いました。
0お読み下さりありがとうございます。 拙作から芸術性の似姿、美しさを汲み取って下さり、うれしい限りです。 そういったものを志向するのは、方法やあらわれに違いはあっても、誰しも同じだと思います。 てんま鱗子さんの『骨灰』という作品を、今、頑張って読んでいます。
0コメントありがとうございます。 この作を書くには実際かなり肩に力が入っていました。まあいつもそうなのですが。日に日にレベルが上がっているビーレビに投稿するのは大変なことです。怠けるのはいけませんね。 夏目漱石の作品(たとえば『明暗』)なんかみたいに一定の格調で貫くことができれば良いとは理想として思っています。 ところで『明るい朝の歌』は良い詩でした。そして思うに、たとえば、 >昨日と今日の夢のあいだで背を伸ばしている子ども というような、まさに「詩的」と言える表現は私のこの拙作にはないなぁという一種の「敗北感」を感じてしまったりしています。
0