別枠表示
水中反転
水の入ったコップ越しに見る文字はひっくり返って見えるから、なんだか鏡を覗き込んでるみたいな気分。自分は写り込まない鏡の中の世界。そこから見る液晶の中ではイワシの群れが方向転換をする。ひらりきらり。彼らは美しいけれど、それについては無自覚だ。彼女はさっき二十五メートルプールで百メートルを泳ごうとした。つまり少なくとも三回は転回する必要があるけれど、その自身の美しさについて彼女は自覚的だ、たぶん。ねえ中華屋さんってなんでなんとか飯店ってとこが多いの〜?って言いながらチャーハンを頬張る彼女の頼んだジャスミン茶はガラス製のポットの中で音もなく開いていく。コップ越しに彼女の口がパクパクするのが見える。むせ返るほどに香るジャスミン。そうか溺れるってのはこういうことか。息継ぎの、仕方がわからない。
水中反転 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1995.4
お気に入り数: 2
投票数 : 1
ポイント数 : 15
作成日時 2020-11-19
コメント日時 2020-12-28
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 5 | 5 |
前衛性 | 2 | 2 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 5 | 5 |
総合ポイント | 15 | 15 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 2.5 | 2.5 |
前衛性 | 1 | 1 |
可読性 | 0.5 | 0.5 |
エンタメ | 0.5 | 0.5 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0.5 | 0.5 |
構成 | 2.5 | 2.5 |
総合 | 7.5 | 7.5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
初出は2017.7.30即興ゴルコンダ(仮) お題「水中反転」は私が出しました。 noteに投稿するにあたって若干修正して絵もつけたので、こちらにも投げてみたいと思います。
0生活の中の何気なさから実感する美しさや、名前のない感情で自分の中がいっぱいになっていく感覚を思い出しました。好きな詩です。
0ねえ中華屋さんってなんでなんとか飯店ってとこが多いの〜? ぼくもそう思います。そして、中華屋さん以外では使われているのをみたことがありません。 中国の店がそういうふうになっているのかもしれませんね。
0霊肉さんへ コメントありがとうございます。 好きな詩だと言っていただけて光栄です。 生活の中にはいつだってハッとするような場面がいくつもあって、それを写真で切り取るように詩にできないものか、そんなことを考えながら書いていた気がします。一枚で切り取るというよりは、印象的な場面をそれぞれ写真で切り取って、複数枚重ねて詩にするというイメージでした。 おそらくこの語り手の感情はコップにそっと水を注ぐようにして少しずつ量を増し、この瞬間、溢れ出たのだと思います。
0田中宏輔さんへ コメントありがとうございます。 ビーレビにもいらっしゃったのですね。主にこひもともひこさんからお噂を伺っております。よろしくお願いします。 飯店については「反転」にかけることが目的だったので、あまり調べずに書いていたなあと思い、改めてググりました。 中国では食事を提供する店を飯店と言うみたいです。食事のついでに宿泊を受け入れる店のことも飯店と呼んだから、ホテルのことも飯店と言ったりするそうです。 ところで、この詩に出てくる登場人物二人は高校生のつもりなのですが、私は高校生くらいの女の子をとても美しいと思っています。それは単に若さとか、いわゆる女子高生のブランド感を指しているのではありません。 高校生というのは、中学までの義務教育を脱して親や学校からある程度の自己決定権を与えられる解放感と、成人前で社会人としての責任を免れる場面が多いことが相まって、“根拠のない自信”に満ち溢れがちな時期ではないかなと思います。そして電車通学などで行動範囲が広がれば興味の対象は増えますし、目に見えている(自分の)世界の範囲がぐっと広がり始める時期でもあります。この“開きっ放しの無敵感”みたいなものを、私はとても美しいと思うのです。 本作では、部活帰りに気心知れた友人とご飯を食べながらダベるという状況を描いています。これは女性特有なのかもしれないのですが、こういう時の女の子は八割方“思いついたことをそのまま口にして次の瞬間忘れる”というお喋りをします。ですから、〈ねえ中華屋さんってなんでなんとか飯店ってとこが多いの〜?〉という台詞は、語り手が返事をするより早く忘れられていると思います。その、一つのところに留まらずくるくると転じてゆく〈彼女〉の美しさに、語り手は溺れているのではないかなあと思っています。
0水とコップ、 ガラス、と少年(少女)が大きくなる様子を見ました。良い緊張感でした。絵もかわいくて。
0てんま鱗子さんへ コメントありがとうございます。 良い緊張感になってましたか! よかった〜。 短すぎると物足りなさが残るし、長すぎると間延びするし、ヒリヒリした感じを出すには匙加減が難しいよなあっていつも思います。 それにしても〈ガラス、と少年〉……。 「硝子の少年」と「ガラスの十代」どちらを連想するかで年齢がバレそうですね。ハッ! 今の十代はどっちも知らないのでは?? 絵は、新宿南口のジャングル(ドンキとも言う)の水槽に住むウツボです。実際は4匹います。ウツボはかわいいです。
0とても好きです。絵もすごく雰囲気があって良いです。 とても好きで、どんな感想書けばいいんだろうな…って思ってたんですが、感想を書かないと投票できないので、忘れないうちに。 水の入ったコップによって反転する絵。 水の中で体を翻す魚、そして君。 陸にいる語り手が、ジャスミンティーの香に空間が満たされることで、「おぼれる」という反転をする。 しかもそれぞれがとてもささやかで美しく映像的。 描写も巧みだったのですんなりと理解でき、 うっとりと読んでしまいました。
0楽子さんへ コメントありがとうございます。 好きだという言葉だけでうれしいです。こうしてコメントをいただかなければ、楽子さんに気に入ってもらえたことさえ私にはわからないので。 最近、「きっと好きだから読んでみて」と知人から紹介された高野文子さんの『棒がいっぽん』という漫画を読みました。それは、自主制作アニメつくりたいのにカメラワークってなんなのか理解できない!と嘆く私に、参考になるかもとすすめてくれた本なのですが。 読んでいて、私は詩でもアニメでも、こういうことをやりたいんだろうなあって思いました。映像的。できたらすてきですよね。 そうそう、あえて語り手の性別を書かなかったところまで拾っていただきありがとうございます。
0何気なくて飾らない、それでいて綺麗な詩で好きです。 最後の一文で突然、水中の不安感というか、溺れることへの恐怖と水面のキラキラ輝く感覚に浸っていたい感覚が同時に存在しているような、不安定な危うさを感じとりました。
0じゅうさんへ コメントありがとうございます。 まだコメント欄開いてるんですねえ。びっくり。 田中さんへの返信に書いたように、私は女子高生の“開きっ放しの無敵感”を美しいと思うのですが、それはじゅうさんが感じた〈不安定な危うさ〉でもあると思います。
0