作品を読む
あるがまま、不条理な滅びさえも受け入れて、その先に自由と、自らに歌うレクイレムがあります。
推薦文とか、批評文とか、とてもむつかしくて、難しいですな。まあ頑張ってみますヨ。 「滅び」とは不条理なものです。そして歓迎されるものではありません。 ――それがとんでもない悪者であったとしても、滅び、というものは、どこか悲し気で恐ろしく、私たちは、常に背後に迫る滅びに抗います。それは生命というシステムでは当然のことかもしれません。自らの種を残すこと、私たちはそう設計され、そう生きています。 というわけで、植物園というものは、確かにそういう大いなるシステムへの反抗として作られたものです。 というのも、「生きる/滅びを避ける」という当然かつ単純な命題は、時にお互いを争わせ、敗者を滅ぼすものです。そういった滅び/争いを避け、「生きる/滅びを避ける」を永遠に引き伸ばせたら。美しいものを美しいままに残せたなら——植物園というのはそういう人間の知性と愛が生み出したエゴであり、この語り手は、人間が作り出したシステムの中で不条理で、不自然な労働を強いられます。 この詩では、滅びをさけるために作られたシステムの美しさと犠牲が同時に語られております。 謎だらけの語り手「僕」「僕ら」は、明らかに軽んじられ、管理されています。しかし彼らには感情があり、色んな特技を持つ同僚もいます。 人間が不自由を強いられることを語るとき、人間がどんな環境であれ、人間であろうとする力強さをも、語っているのです。(ここではもしかしたら、”人間”ではなく“意思”くらいの曖昧さを持たせた方が良いのかもしれません) 自然をあるがまま、滅びを避けるように生きるものたちが、それでも滅んでいく世界であるとするならば、 植物園は、滅びを避け延命治療を施し、そのためにあらゆるものがからめとられ不自由を強いられた空間であるといえます。——が巧妙なのは、そう単純化できないという部分で、植物園は、確かに美しいところとして描写されているのです—— さて、この詩の美しさ、凄み、頭をひとつ抜けさせる素晴らしさは最後にあると私は思います。 以下引用 >換気取りの天窓が割られていきます >その光景を僕らずっとみんな待っていたんだ >植物園に >初めて冬が訪れます >石たちの威力! >雪の侵入! >肺を満たす針のかぜ! >こおり! >最古の植物たちの死が最後に待ってます この詩の美しさったら!そして悦びったら! あまりに暴力的な「自然」そして避けてきた滅びの象徴である「冬」。それらを大きく吸い込んで、破壊されていく「植物園」。そしてそんな暴力的な死を、受け入れ、一心に感じ取ろうとする、「僕ら」最後の歌は、反省の歌、というにはあまりにも美しくて清々しく、まるで彼らが、彼ら自身の魂を救おうとしているようにも思います。 私たちは滅びを避けるように設計されています。それでも、いつかは滅びるのでしょう。勿論抗うだけ抗うだろうけど、それでも滅びます。それは不条理のように思います。滅びるのであれば何故生まれたのだろうかと思います。 ここに描かれていることは、その答えでもあります。 滅びを受け入れること、「あるがまま」に、滅んでいくこと。 あるがまま、不条理な滅びさえも受け入れて、その先に自由と、自らに歌うレクイレムがあります。 それは、人間である、ということです。人間らしく、生きるということなのです。 それは、いのちである、ということです。いのちらしく、生きるということなのです。 私たちとは異なった背景とルールの中で生きているであろう彼らの、全くもって理解のできない、なのにどうしようもなく理解できてしまう、異質な笑い声と歌声が、遠く電子の海の先から聞こえてくるような、幸福な体験をしました。 さて、私はここをもっとも重視しましたが、この詩には語るべき部分がまだ多く残っているし、 これとはまた別の解釈もできるような気がしております。 「人間以下」とは何なのか?「僕ら」とは?管理者は?植物園とは?これは何かのメタファー?それともありのままの描写?メタファーであれば、何のメタファー? 技術的な面でも、明らかに異様な空間に、巧みに現実的かつ共感できるリアリティを作り上げていること、それからSF的な描写のうまさ…などあるでしょう。 というわけで、是非色んな方にこの詩を読んでもらいたく、この推薦文を書きました。 ちなみにこの詩のアンサー的な詩が出ておりますが、推薦文の推敲を終わった後に読んだのでこの推薦文の内容には組み込んでおりません!(笑 不真面目な読者なので、この一作品のみで感じるエモーショナルを、是非みなさまにも感じてほしいのです。わはは。
あるがまま、不条理な滅びさえも受け入れて、その先に自由と、自らに歌うレクイレムがあります。 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1630.6
お気に入り数: 1
投票数 : 0
作成日時 2020-11-08
コメント日時 2020-11-11
引用されたところ、その良さが私もようやくわかりました。イメージの喚起力が秀でていると思います。 天窓から吹きすさぶ、ふぶきのような激しさが綺麗です。
1ありがとうございます。とてもうれしいです。
1私の感じたものと同じものを伝えることができてとてもほッとしました。 イメージの喚起力…。こういう語彙が私にはなく、とても腑に落ちました。 ありがとうございました。
1いえ、こちらこそありがとうございました! 一応10月は全部読ませていただいたんですが、その中でも一番響いた詩なので、 どうにかこうにか、頑張って推薦文を書かせていただきました。
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