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太陽のある世界で死ぬ者たちよ
あの子はある朝思い立って お小遣い3,000円だけ持って あの曲がり角をまがって もう二度と戻ってはこなかった。 あの曲がり角の先にはもうひとつ曲がり角があって きっと彼女はその曲がり角もまがっていって さらにその先の曲がり角も曲がっていって そうして永遠に直角に生きて 生きて いきてて 息してておくれ 私はもうずいぶんと炎を見ていない 電子化された熱の中でチキンを焼いている 生きた炎を見ていない 死んだ熱の中で死んだチキンを焼いています 君の小麦の肌の 生きた熱の中で生きた君のうたう 聞いたこともない思い出話を聞きながら わたしは 死んだ熱の中で死んだチキンを焼いています。 デラデラと笑う太陽から逃れて入ったラーメン屋の、 デラデラとテカる豚骨に救われて またデラデラと笑う太陽の中に走っていく、 きみ、あなた、わたし、かれ、かのじょ の、 概念が公園の影で寝転がっています。 時々ビールを飲んでいます。 カアサンの、折れた背骨、垂れた乳、塞がる瞼、常時不機嫌な唇、悲し気な眉、 未来を見ることなく、地面を見る顔の角度よ。 つかれきった、土気色の肌に反射した渇きよ、飢えよ。 母はもう、溶けている。 太陽の熱さは重すぎて 溶けている 溶けている、 くたびれた母の背中にのしかかり、溶かしている 溶かしている 干からびたカアサンの一滴を絞り出したのは誰ですか? 雑巾みたいに、絞り出したのは、だれですか? カアサンを呼び止めようとしたけれど、カア、って呼んで、やめた 鴉の声に紛れますように 夜にもう一度、会いに来ますから 「こン体ン中に、どうしようもなく燃えているモンがあるんよ。 太陽みたいに燃えているモンがあるんよ。逃れられんのよ」 口紅も引かず彼女はそう言った。 俺は彼女を愛することはできないだろう。 彼女はつむじ風にようにぐるぐると同じところを回って飛翔していく 舞い上がれイカロス 脱獄するためではなく 死ぬために跳べ、飛べ、トベ! くたびれて、ソレイユ、お前だってもうずいぶん、くたびれて、それでも太陽、お前はまだ 輝くという 昇るというのだ。 くたびれて、指一本動かせず、疲れていて、もう何日も働いていて、笑顔さえも欺瞞になって、腰はもう、折れた角度を覚えていて、頭はもう、垂れた角度を覚えていて、優しさ、優しさは日本円に換算したら何円になりますか?もうそうやって、たくさんのものが数字に置き換わっていって。 この男は、仕事で疲れて、罵倒され、傷ついて、自尊心を失って、暗い部屋で、性的搾取をしてみたりして、 この女は、仕事で疲れて、侮られて、傷ついて、自尊心を失って、暗い部屋で、性的搾取に抗ってみたりして、 2人は、おんなじ生き様の、悲しいすれ違いの中で、傷つけあったまま、暗闇の中で、光をもとめて、ひっかき合っていて、男と、女の、間にあつまった皆が、ぐるぐるぐるぐるって嵐みたいに吹き荒れて、誰ももう、まともに頭なんか、働いちゃいないんだよ。 なあそれなのに、お前はまだ、陽はまたのぼるのだって、いうのか? ああもう、だれもかれも、泣いていて、夜、そう夜の中で、ぼくら、心をむき出しにして、ないているだろ。 ぼくらが瞬きを覚えたから、ぼくらが夢を覚えたから、光、ソレイユ、君ってやつは、ぼくらの心なんか、知りもしない、照らせもしない。 でも、乾ききったぼくらの身体、絞り出したぼくらの涙、さえも、照らして、ソレイユ、お前だってもう、ずいぶん、くたびれて、それでも太陽、お前はまだ、輝くという 昇るというのだ。
太陽のある世界で死ぬ者たちよ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1407.1
お気に入り数: 2
投票数 : 1
ポイント数 : 54
作成日時 2020-11-08
コメント日時 2020-11-11
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 12 | 12 |
前衛性 | 10 | 10 |
可読性 | 6 | 6 |
エンタメ | 4 | 4 |
技巧 | 13 | 13 |
音韻 | 6 | 6 |
構成 | 3 | 3 |
総合ポイント | 54 | 54 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 6 | 6 |
前衛性 | 5 | 5 |
可読性 | 3 | 3 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 6.5 | 6.5 |
音韻 | 3 | 3 |
構成 | 1.5 | 1.5 |
総合 | 27 | 27 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
誰かと思えば、武田地球さん、「生きるためにパイを焼く」の作者さんですか! この詩は実は、「生きるためにパイを焼く」に対しての私なりの返詩なのですよ。 まさかコメントを戴けるとは思ってもみなかったですが、とてもうれしい。 とてもとてもうれしいです。
1「実感」への欲求。 「火」で焼いた「肉塊」が食べたい。 そんな心象から、生きるということそのものへの飢餓感、渇望へと変化していく様が良いなと思いました。 蛇足ながら、日本語の文章に「?」や「!」などを使用するのを個人的にはあまり好みません。 しかしながらそれを超える力を文字の中から感じさせていただきました。
0いや、本当に奇跡が起きたようでとてもうれしく、なんども読み返してしまいました。 武田地球様の書かれたいのち、は、死後の「呼吸」を描写することで生死の境目を曖昧にしながらも、生きる、に針を向け続ける人間の日常の営みを、これまた命のないものの「呼吸」の描写で表したものだと理解しております。 一方で私は、どうしても生きてしまう、死ぬことができない、死というのがどうにも遠く感じてしまう、何度も登ってしまう太陽というイメージが強く、武田様の作品に対してぶつける形にいたしました。 (とはいえ、こうやって口に出さなければ気づく人はいないでしょうね) 水をモチーフにしがちな私ですが、あらたに太陽、というモチーフができたことがうれしいです。 ありがとうございました。
1コメントをありがとうございました! はい、私はどうしても生きていくために生きていきながら、生きていたいと思ってしまう、 何度でも生きてしまう、目が覚めて会社に行ってしまう、この「しまう」がとても苦しいのですが、一方で捨てられないのです。 それと「!」や「?」の使用についての好み、興味深く思いました! 私は手癖で記号を使いがちで、詩情を削ぐ可能性がある、というところに思い至れずにいたので……。 言われてみれば、記号ではなく描写や筆圧で伝えられることはまだまだありますね。 こういう気付きを戴けることもまたとてもありがたいことです。 改めてありがとうございました!
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