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愛の名前
そこは 頑丈な煉瓦で覆われた大きな建物の 浴室なのだろうか 女たちは 嬉しそうに 着ている服をすべて脱ぎ 整列させられ 冷たいシャワーで汚れ物のように 車いすに乗った 数名の男の医師に洗われた そして 身体中を舐めるように いたぶられると あらゆるところから血が流れた そのように 触診されてから 合格という焼印を肩甲骨の上に押されると 家畜のように 小さな汽船に乗せられた 女たちは 焼印のときの 耳が裂けるような悲鳴以外は 誰も泣くものはいなかった 女たちの船での仕事は 毎日三度の御粥を啜ることと シャワーを浴びて清潔にすること 乗船を拒否し 男たちに鞭で打たれて 気絶した女を介抱すること 女たちを監視するために 汽船に寝起きする男たちを シャワー室に 誘惑して こん棒で叩いて 両足をつぶし 車いすに乗せること そして 理由なく 待つことだった その船は 白い靄に覆われていて いつもそのなかを漂っていた わたしは こうして胸が昂ぶっているときに 度々 脳裏に浮かぶのだが そんな女たちを乗せる船をどこかで見たことが あったが 思い出せない この冬 雪が降りださんばかりの寒さのなかで わたしは 気を許した女の 横に寝て 足を絡ますと 頬が昂揚する女の眼のなかを 剃刀のような鋭さで その光景が 出ては 消え また 姿をあらわしてきた 気づかれまいと 女はつよくからだを寄せたような気がした わたしは 許すためだったのか 憎むためだったのか その剃刀をのみこんで 女のきゃしゃな肩を抱いた 未明の睡魔がおそう 朦朧とした意識のなかで わたしは 冷静にも 女と はじめて秘密を共有したと思った 女は 確かに頷いたのだ
愛の名前 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 998.1
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-08-25
コメント日時 2017-08-28
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
始まりからの情景描写が圧巻。読み始めた当初、これは虐殺?ホロコースト?などと詮索しながら読みました。或いは、殉教者を転ばせる為の拷問か。しかし、結末としては、男女の秘密がテーマだったのかという。読者からの欲を言えば、始まりで描かれている船に、私は置き去りになりたかったです。そのまま、船の中でその女性たちと一緒に終えてもいいぐらい。ごめんなさい。私はマゾな読者なので。
0こんにちは。三浦果実さん、 ご批評有難うございます。 この詩の大きな建物、船の様子は、 全部、比喩です、 大変だったけど、がんばって書いてみました。 これは、SMとか、そういうことではないです。 SMは、痛いし、人に暴力を加えるのも嫌ですね。 よくドラマや映画のアクションシーンで 殺人シーンなど、思わず眼をそらしてしまいます。 僕は、ケガとかで血をみると気持ち悪くなるし、 注射を打たれるのが、いい大人になっても、怖いのですね。 人は、存在するだけで、人を傷つけていると思うのです。 他人とのかかわりにおいて、また同時に存在するだけで喜びも与えている それが人間関係だとおもいます。 「恋愛」において、愛することは、相手に多くの喜びを与えあうこと、 同時に、相手から、多くを奪い、無償の犠牲さえ、喜びとなり、 時に、多くを傷つけることになる。 相手の欠点を認め合い、許しあい、自己犠牲も厭わず、 相手から受けた強いこころの痛みも、許しあい、 欠点だらけの お互いが 暗黙に、承認しあったとき、 「愛」というものがうまれるのだと、思います。 そんなことを考えながら、心の問題を、 一種の「かたち」ある極端な比喩で、表現したのでした。 ありがとうございました。
0こんにちは。花緒さん。 ご批評有難うございます。 好みの一作といって下さり、大変うれしく思います。 ひとの原初的なイメージで書いてみた試みです。 「愛」のすがたは、多分、詩において ありきたりな表現は、いくらでもあるので、 もう 殆ど、 出尽くしていると思います。 今までに無いようないイメージ像をチャレンジしてみました。 好意的なご批評ありがとうございました。
0ちょっと気になったところだけ書きます。 >頬が昂揚する女の眼のなかを >剃刀のような鋭さで >その光景が >出ては 消え また 姿をあらわしてきた ここは、 「剃刀のような」が、重要な部分だと思いますが、 >その光景が >出ては 消え また 姿をあらわしてきた は、自然ですが、 >剃刀のような鋭さで >その光景が >出ては 消え また 姿をあらわしてきた は、描写の鈍ろさが瞬間性を殺してしまうので 残念が気が(わたしには、《私には》です)しました。 「剃刀のような鋭さで」・・・ 「出ては、消え」(は、いいですが、) 「剃刀のような鋭さで」 ・・・「また 姿をあらわしてきた」 この部分だけ、違和感が残りました。 此処がもう少し丁寧に書いてあると、朦朧とした男の独り語りでなく ある哀しみを背負った男女がふたりいる姿が見えてきたでしょう。 (以上です)
0こんにちは。ハァモニィベルさん。 ご批評有難うございます。 そうですか、 細部まで、読み込んで頂き、ありがとうございます。 今後は、そういう部分も含めて、 上手に、書けるよう、 努力していきたいと、思っています。 有難う御座いました。。
0以前、血だまりの中で目覚めると、首なしの男がウロウロしている。前夜、男に頼まれて首を斧で断ち落したことを思い出す。さて、この男に、今朝もまた、首を選んでやらなくてはいけない・・・という詩を書いたことがあって、読んだ人皆に「こわい」と言われたのですが(笑) 心理的な葛藤をリアルに描こうとすると、映像が怖くなる、ということは、多々あるような気がします・・・ 男は女によって足(自力で歩く行為)を奪われ、女は自ら捕らわれの身となって男に奉仕する。ある種の共依存の関係が、ここには展開されているような気がします。 あなたが居なくては生きていけない・・・そんな情熱的な恋愛、忘我の極致に到るような恋愛は憧憬の対象であるけれども・・・実際にその泥沼に陥った時、そこから先は、既に生存の道も閉ざされてしまう。そんな瀬戸際を共有した瞬間の二人の胸中を描いているように感じました。 物語の中でだけ、その「忘我の極致」を体験出来たら・・・あるいは、二人っきりでいる時「だけ」その秘密の時間を共有出来たら・・・そこから戻ってこれなくなる危険は無いのかもしれませんが、それがリアルの生活を侵食し始めたら、大変ですね。そんな危うさを秘めた関係を(特に最後の一連から)感じました。
0こんにちは。まりもさん、 ご批評有難うございます。 僕は、詩で男女が足を絡ませるというような描写をしたのは、 初めてだったと思います。 恋愛詩の、独特のベタな詩になるのが、いやで、 比喩が強烈になってしまいました。 これは、「愛」を書いていますが、どちらかというと「熱愛」かもしれません、 例えば、愛し合っているとき、今日は何時に寝ようとか、明日の朝食は何にしようとか、 明日、何着て出かけよう、とか考えていないですよね。 共依存となると、そう読めるかと、ちょっと考えちゃいますが まりもさん、の仰るように 「あなたなしでは、生きていけない」みたいな一時の、盲目的な恋愛感情、 お互いの長所も、短所(この詩では、ここに重点を置いていますが)=剃刀を飲み込むように 二人だけの「秘密」として 認め合ったとき、の「愛」のイメージという感じです。 そんな感じを、まったく真逆な一種の暴力的なイメージの比喩で表現した試みです。 大体、読んで下さっているので、 嬉しく思いました。 ネタバレすると、詩の深みがなくなると思い、 ネタバレしても、プラスアルファー、謎めいた心理的な奥行きを 比喩に盛り込もうと、試みてみました。 有難うございました。
0追記 しばし考えましたが、 まりもさんが、仰る、共依存というのも面白いかもしれません。 極めて危うい盲目的な愛という意味では、 とても魅力的な読み方だと思いました。
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