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Anthology
「書道教室」8歳 日曜日は自転車に乗って書道教室に行きます。 書道の道具の入ったカバンは、墨汁で汚れています。 自転車の前カゴの中で、カバンが揺れています。 ペダルをこぐ半ズボンから、膝小僧が伸び縮みしてるよ。 国道沿いを抜けて、海沿いの農道を抜けて。 雨の日はバスで行きます。 しと、しと、降る、雨。 ガードレールに腰掛けて。 黒い傘のメッキした棒に雨水がしたたります。 カバンを抱えていたら、僕の前に自動車が止まりました。 「乗っていかない?」 車の中で、僕がかわいそうに見えたと、その大人は言いました。 2㎞離れた所で降ろしてもらいました。 いつも教室が終わったら、 自転車に乗って、 駄菓子屋で、肉まんを買って帰ります。 冷えていてもね、お母さんが喜ぶから。 「冬の農道」16歳 幼なじみと二人、駅から歩いた日。 舗装された、古い、細い農道を歩く。 両側に田園が広がり、すこしとおくに防波堤。 かがやいた海が見える。 作物のない、平たい田んぼを、 脱色し覆う、薄い雪を、 飴色の低い太陽が、ただ照らす。 彼の詰め襟の学生服は、 丈を短く仕立て直されて、 ただ、ぼくを威圧した。 路線バスは1時間に2本しかなかった。 あまり話すこともなかった。 ぼくは、言葉のない人間だった。 おびえて生きる、つまらない奴だった。 凍結した雪を踏んで黙って歩く。 彼は、違う道に向かっていた。 そうしなければ、意味がないかのように。 ぼくも、やがてそうした。 記憶の中の子供らは、 もう、そこにはいないのだが、 沢で蟹を捕っていた。 水草のあおい匂い。ざらついた石の手触り。 ちいさなゴム長靴がゆらす水面は、 まだ、冷たさを与えて。 「汽水域」30歳 憧れは都会に咲くことでしょうか。 乾いた銀の鐘のように凍った夜がありました。 瀬に漂い着いたのは、 火星の残像を映すブラウン管です。 強がりな、 コンクリートに寂しい肩を広げる河。 煙る工場の電飾に顔をさらし、 カラカラと改札を通り過ぎます。 極北からクジラのいびき声がとどく頃、 黄色いタクシーの室内灯、 孤独で優しい帰路もありました。 乾いた銀の鐘のようなコンペイトウにも似た、 カラカラと咲く、 固く凍った都会にて。 「幸せに生きることができますように」42歳 点は区切られた線上にある。 無限の点を通過するのに、 無限の時間はいらない。 それは一瞬であっていい。 竹の飾りに、 短冊を結わえる。 この願いを込めた、 四角い紙きれは、 風にそよぐ。 小枝にさがるのは、 お金持ちになりたいという、 誰かが書いた、 いくつかの、 本音めいた願い。 彼女がほしいと、 真っ白な短冊は、 泣いているのだろうか。 照れ笑いしているのだろうか。 かわいらしい、 アイドルの写真がさげてあった。 ふわふわと揺れ、 竹飾りを華やかにする。 明日はまた、 竹の飾りのように、 儚くとも希望を持ち、 風に乗ればいつかは、 枯れてしまってもいい。 胸のなかの夜空は輝く、 そこにはわたしの、 宝ものが映っている。
Anthology ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1304.3
お気に入り数: 2
投票数 : 0
ポイント数 : 2
作成日時 2020-09-25
コメント日時 2020-09-27
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 2 | 2 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 2 | 2 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
伺うところこう繊細な人は、字の細かい漢字などをもっとつかえば、こんな者が「日曜」にコメントするようなことは無くなります。フィットするから孤独かもしれませんが魂が嬉しくなって、その様な気が致しました。 42歳、その繊細な男が、彼女、アイドル、と性的な事を吐露しますが、「枯れてしまってもいい」と断絶された事を感じ、男が自分の少年時代をすっかり忘れてしまったようにも映ってしまう。こういう訳です。
0てんま鱗子さま。 ご感想いただきありがとうございます。これは7年ほど前に書いた詩をまとめたものです。もし、作品を読んで感銘を受けていただいたのなら嬉しく思います。作中の「汽水域」は、詩とファンタジー2013冬愛号に掲載されました。 当時の心境も作品に反映していると思います。現代詩の詩作に熱中していました。好きな女性もいました。まだまだ、希望を持って生きていました。 現在は平穏に暮らしております。
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