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粘土
粘土を、こねる。やわらかい粘土達は、自らを無形と呼んでいて、私も、彼らを無形と呼んでいる。 無形の粘土達は、有形へ変容したがっていた、私も、彼らを有形とそっくりに形作ってみた、しかし、形を模した粘土に、感情を抱かれることが叶わないのだとぽつり、泣き崩れるように、柔らかに崩れて元の無形になる。 無形達は、固めて、引っ付いて、同じような油っぽい臭いを漂わせ、引きちぎられるように、離される。彼等は、同じ無形同士で有形を模倣しながら、元の無形へ戻る、そうやって、またやわらかくなる。 私は有形を持っていて、しかし無形で、あそぶ。私は粘土をこね続け、無形の手触り、質感を確かめ、そして、彼らが有形である実感を得る。形がないこと、硬質でないこと、普遍性をもって存在しなくとも、粘土は確かにそこに存在するのであり、それは、無形ではないのであり、この世のあらゆるものは、無形でないのであり、つまり、無形という単語はこの世に存在してはならない。そんなことを、考えながら。 しかし、無形という言葉が存在する以上、彼等は無形を背負い続けるのだろうし、寄り添って体を温め続けるのだろうし、私もまた、彼らを無形と呼び続けるのだろう。
粘土 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 2462.5
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 8
作成日時 2020-09-21
コメント日時 2020-10-22
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 3 | 0 |
前衛性 | 1 | 0 |
可読性 | 1 | 0 |
エンタメ | 1 | 0 |
技巧 | 1 | 0 |
音韻 | 1 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 8 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0.3 | 0 |
可読性 | 0.3 | 0 |
エンタメ | 0.3 | 0 |
技巧 | 0.3 | 0 |
音韻 | 0.3 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 2.7 | 1 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
久しぶりに覗いて思わず全部読んだこの作品、とても心に残ったまま、3日たって、深夜にまた覗いた。今一度読んでみた。とても心を打つ。もしかすればふじりゅうさんはロジックに徹してこれを書かれたのかもしれない。もしそうでなかったとしても僕にはそのロジックに徹して書かれようとされる作者の後ろ姿が重なる。粘土を前にされた話者が有形と無形の間を残念さを持って反復される様が重なってくる。 以前にある詩人がいくら言葉を組立てても現実を超えることができない残念さを語られていた。それでもその残念な気持ちを抱えながらも言葉を組み立てようとすると、そう僕に教えてくれた。詩は技巧で人に読ませなければならない。詩は組み立て書かれた様による。結果、作者が唯一作品で示せるのはスタイルだろう。どうやって言葉を組み立てたのかというスタイル。 書き表される内容など大量な情報を前にすればどれもこれもが既視感覚が先にきて読めない。「だから何?」という問いをする読み手を前に、その壁を越えることは難しい。 無形を有形にしようとする詩句らしさのない言葉を用いながらもポエジーが宿らされているように読めたし、残念さを抱えた情緒あるエモい作品だと思う。思わずコメントしちゃいました。
1ありがとうございます。久しぶりに力を入れて詩を書いたのですが、過去の作風とはまた違ってしまったように回顧します。 あれやこれやと色んな作風を試しては辞めてしまうスタイルには賛否あるとは思いますが、コロコロ方向性を変えていくことそのものが私のスタイルとして確立出来れば、或いは、変わっていく中で一貫して変わらない芯がきちんとあれば、それは評価されるものになるのかもしれない、などと思っています。
0目に見えない詩情なんてものを言葉で描けないのに描こうとする。悪戦苦闘である。詩作、思索、して結局、言葉に出来ずにぼんやりと原稿用紙やノートを眺めていることがある。それはとてもこの詩の粘土と向かい合う主体とよく似ている。 ロジックとか理屈ぽさとか、ふじりゅうさんがクリエイティブライティングでやられている事が、今作のふじりゅうさんの筆致にも現れていると思う。いい意味で。物思いにふけり粘土というものを通して、もう一人の自分と向き合うように対話する姿がじわじわと染み入ってくるひたむきさがある。
0ありがとうございます。表現しようのない事をなんとか言葉にしていきたいという情熱、ものを書くということの難しさを思いながらも何とか言葉にしていきたい感じが作品に出たのかもしれません。 ロジックは所詮ロジックでしかなくて、もっと大切なものを詩で表していきたいのですが、ある意味、ロジック以上のものを書けていなかったのかもしれないです。ご好評頂きありがたく思います。
0久しぶりにのぞいてみたら、今創ろうとしている詩と 深く関係している、この詩を見つけ驚いています。 それは"無とは"という仮のタイトルで、無について のものです。いろいろな展開を考えていたところに この作品に出逢いました。無+Aで、A=形の場合がこ の詩であり、無+Aとすると、無単独よりは具体的と なり、無の本質がわかりやすくなり、面白いなぁと 思いました。ここで、 >無形の粘土達は、有形へ変容したがっていた ここが特に面白いですね。なぜかというと、長く なります。笑。ここはまさに無の真空が、量子論 的にみると、完全な無ではなく、粒子が現れては すぐに消えるという不思議なものなのですが、こ れが無が有になりたがっている----とみなすこと もできそうです。また、この粘土を物質をつくる 素粒子と考えると、いっそう面白くなります。 >この世のあらゆるものは、無形でないのであり まだ創作途中ですが、返詩のなかで ほんとうに何もない 無なんて ありはしない この部分と似ています。かってな解釈かも知れません。 それでは返詩です。 ***無とは*** 無がなければ 有はない 最大の発明の ゼロがなければ 今の文明は 存在しない でもそれは理論の中だけで 現実には ほんとうに何もない 無なんて ありはしない 巨大な力が 打ち消しあって 無となる時空に 僕たちは 住んでいる きみがうるさいって 言う騒音を 消してしまう装置は 音波の山と谷の 干渉で無音となっている それでもそれらが 完全ではないように せめぎ合う 巨大な力は ゆらぎ 無の中で 粒子が現れては すぐに消える そう 真空は無ではなく 巨大な力を秘めている 宇宙を生み出す 巨大な力を秘めている
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