(Q.きりんはくびがだいたいどれくらい
のびるんですか?)
私は街の雑踏のなかのきりんを見たことがある
長い首で歩いているだけで、窓を覗いていると言われ
足下がおろそかになり、ひとにぶつかり謝っている
頭が高い、のだと、謝るさまなのかと責めたてられて
エラい人の凱旋の垂れ幕に
引っ掛かり申し訳なさそうに
きりんはあまりに、なかない
ただ、身を縮めビルにもたれて、身動ぎしなくなって
そんなきりんを省みるものは、もう街を出て故郷へと帰る
人々だけであり、それにしたところで、どうしてやる事も
出来ずに草や水を与えて次第に毛艶をうしなう脚を撫でて
気まずそうに目を伏せて、去っていく、私もそうであった
きりんはきりんの居場所にいたら良かったのか
今ではきりんの体はあのビルの壁に写りこみ
親子連れや観光客が記念撮影をしているのだ
あのきりんを責めるひとはなくもうあのきりんは忘却されて
このきりんは遥か昔からそうであったように認められている
きりんの魂はどこに行ったのだろう、ときりんの足元で
シュラスコを売るブラジルから来た男に尋ねると肩を竦め
流暢に串に刺したシュラスコと釣り銭を差し出し、
「クニでオフクロさんが首を長くして待ってるだろう、と
言われるんだ。きりんはあんたのオフクロさんなのか?
違うだろ、あんたのオフクロでもないのになに気にするの」
そう言って首をとんとん、と叩いて笑った
その流暢な日本語に喉が震えて私は黙った
きりんのかげろうシュラスコは喉を焼いた
帰りの雑踏のなかで首の短い動物と私はたくさん
すれ違った、特急電車の車掌に切符をみせながら
きりんの魂まで、というと車掌は首をさすって
あなた本当にきりんを見たんですか
と、問うから僕は、いいえ、と
(A.はっきり言ってわかりません!
でも、首と頭の長さは、だいたい、同じらしいよ)
だいたい、ちょうどいい長さの答えできりんを諦め、笑った
作品データ
コメント数 : 7
P V 数 : 1886.2
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 7
作成日時 2020-09-19
コメント日時 2020-09-23
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 3 | 3 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合ポイント | 7 | 7 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 3 | 3 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 7 | 7 |
閲覧指数:1886.2
2024/11/21 23時07分16秒現在
※ポイントを入れるにはログインが必要です
※自作品にはポイントを入れられません。
こんにちは。楽しく拝読いたしました。 私は、ヘーベルハウスのCMが好きなのですが、キリンやゾウを起用して 日常生活の中に 人間より大きな生き物が存在するというだけで十分楽しいのに、この作品のように 物語があると、楽しいですね。 告白なのですが、題名の「きりんのかそう」ですが、読み終わるまでは、キリンの火葬だとおもってしまってました。えぐい終わりにならなくて ほっとしているところです。ろくろっくびの火葬くらいの怖ろしい話になったら、どうしようかと 思いました。(汗) 動物園に行けば、きりんには 出会えるので、ついつい キリンといえば、どのようなフェルムか解ってしまうのが、通常の固定概念だとは思いはするのですが、本作品のように曖昧でよく分からないほうが 世界が ゆたかなものだなあ、楽しいなあと思いました。 ちょっと思い出したのは。私の場合は 江戸時代の画家、伊藤若冲の作品に 鯨と白いゾウが描かれているのを思い出しました。ゾウを見たことのない画家の描いた、ゾウが曖昧で イイ感じなのです。 ↓つまり、わたしは 最後のこの行が 大好きです。 >首と頭の長さは、だいたい、同じらしいよ) かおなしか! と、つっこみをいれたくなったりして 楽しい読み物が読めました。ありがとうございます。
0文章の切り返しが鋭くて素敵です。見習わせていただきます。
0象と鯨の屏風絵の白い象は精霊的なものを感じますね。日本の水墨画などもあの雄大な大陸の風景をあるものから想像して書いているそうですね。曖昧さによって滲み出すような想像力が味わいを深くする事はあるかもしれない。
0ありがとうございます。ただ見習うならもっと良い手本がありそうですが 笑。書き手はなまくら、なので驚きました
0モチーフにされたきりん、はどこか幻想的だったりするのに、現実の描写がとても地に足がついていて好きです。 どこが好き、というのが難しいのですが…。 ラストの余韻、何か答えを出してしまえそうなものを、でも出しちゃうと興ざめしちゃうものを、 ちょうどいいところで切り上げて終わってくれたな、という印象でした。
0曖昧というのは時に凄く大事な気がします。書きたいことを10書いて主張するより6ぐらいにとどめてそういう曖昧さ、というか隙や遊びがあると読む人もあれこれ考えて肩肘張らずに読めるのかもしれません。ある漫画で不眠症のボクサーに骨のない魚、について教えて、骨のない魚てなんだろう?と取り留めなく考えるうちに眠れるようになる、というエピソードがありました。ちょっと違うかもしれないですが、きりん、もそういう眠剤みたいなものかもしれません。
0興ざめにならなくてよかったです! そういうさじ加減が苦手でもありまして、今回はうまくいったようで嬉しいです。
0