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やまおりたにおり、折り目正しい但書付き
しとしとと雨が降っている。ゲリラ豪雨って やつに二日連続やられたから、こういうのは 新鮮だ。一昨日は悲鳴を上げた折り畳み傘で さえ柔らかくたわんで受け流せてる。ふと、 新規の取引先の受付にいた加藤さんってコを 思い出す。まだ話したことはないんだけど、 こんなふうにやさしい感じで笑っていたな。 # キツくて辞めたいと訴えたら売り場から本部 へ移動になって二年。企画なんて立てられる わけもなく、ついに受付に左遷された。営業 部で幅を利かせる先輩に「ニコニコしてれば 給料貰えていいご身分ね」って面と向かって 言われたからもう限界。ご存じないでしょう けど、笑ってるだけだって疲れるんですよ。 # 最近、何度電話しても繋がらない佐藤さん。 避けられてるのかなあ。新商品をすすめたい んだけど。終わったかー。てか、サ行の発音 ってなんか苦手だから、佐藤さんじゃなくて 加藤さんだといいのに。代表番号で加藤さん いますかって聞いてみるか。「弊社に加藤は おりません」って取引まで終了したりして。 # 間違い電話が鬱陶しい。また留守電の通知。 海川製造の山神って人だ。海と川を造る山の 神様とかすごいな。讃えよ母なる大地かよ。 あいにく佐藤は席を外しております。ええ、 いついつまでも。ところで私は佐藤ではなく 加藤なんだけど「加藤さんに用はないです」 とか言われたら悔しいから言わないでおく。 # ネットを流し読みしてたまたま目に止まった 愚痴。海川製造の山神って人から間違い電話 がきてウザい。え。会社と名前、漢字は違う けど、まさかこれ、個人情報の漏洩ってやつ かな。俺、毎日電話してる番号なんてあった っけって思って「あ」ってなる。佐藤さん。 マジで加藤さんにかかってたとか笑うわー。 # 受付カウンターで手元が隠れるのをいいこと に、顔だけニコニコしながら折り紙を折って いる。手順が多ければ一枚で事足りる。折り 返す、ここで。説明書通りの罫線はないけど 覚えているからわかる。ポケットでスマホが 鳴る。仕事中は出られません。佐藤なら不在 です。でも、明日からは無職。次は出るか。 # 「毎日電話くれるなんて熱心だな、きみは」 二週間の自宅待機が明けて、元気ハツラツな 佐藤さん。突然降って湧いた休みに社用電話 なんて出られるかって豪快に笑ってるけど、 そこは出てくださいよ。俺の電話は、確かに 佐藤さんにかかっていた。加藤さんにかけた という海川製造の山神、俺じゃなかったな。 # 「もしもし」「いえ、違います」「佐藤では ないです。おかけになったのは何番ですか」 「ああ、こちらは080です。090ではありま せん。かけ違ってますよ」「いや、押し売り とか迷惑なんで」「あの、余計なことを言う ようだけど、毎日留守電残すのやめたほうが いいと思いますよ」「いいえ。失礼します」 # 二回目の訪問に担当者の出迎えはない。受付 のコ変わったな。加藤さんは休みか。このコ もかわいいな。いつもお世話になってます。 宇美川製造の山上です。これを機にお近づき になりませんかという言葉は飲み込んで営業 スマイル。いえ、近くに来たのでご挨拶を。 じゃあ、出直します(またきみに会いに)。 カケチガウしばらくしたら折り/返します罫線に沿っていく度も
やまおりたにおり、折り目正しい但書付き ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 2349.5
お気に入り数: 3
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2020-09-18
コメント日時 2020-10-07
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
※この作品はフィクションです。登場する人物、企業等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
0タイトルの山折り谷折りと、折り返しの電話をかけているんですかね? とにかくタイトルが好きです。 日記のような文章を詩で見るのは中々新鮮でした。
1くおん 文字描きわんこさん はい、かけています。 タイトルを気に入っていただきありがとうございます。 こちらの電話がくおんさんにつながったようでうれしいです。 シャープを二回、またいつか。
1ざーっと読み進めて、最後の短歌(…ですよね?)でガツンとやられて、もう一度読み返して良さに気づきました。 ちょっとだけ交わっていた、でも交わってなかった二人が、X字のように近づいたようでどんどん遠ざかっていく。 山折りと谷折りでは接着する面が違うのですね。 種明かしパートが「折り返す、ここで。」とある場面のちょうど次ってのもオシャレ。 このまま通り過ぎていくのかなと思ったけど、最後の短歌を詠むともうワンチャンスありそうですね! (ロマンス好きなのでポジティブな解釈をしてしまう) ただ、男性側は割と気楽なテンションに見えるのですが、女性側は結構切羽詰まった感じもして、そのあたりモヤモヤしてたりもします…。
1楽子さん 短歌はまったくの初心者なのですが、時々いろんな方から影響を受けて真似事をしたくなります。この詩では、最初に最後の一行ができて、この一行のために全体を書きました。 「ガツンとやられて」とか「オシャレ」とか普段はなかなか言われない身に余る褒め言葉に照れています。ありがとうございます。 山上さんと加藤さんがもう一度出会うのかはわからないけれど、地球上に人間が二人以上いる限り、やまおりたにおりはあちこちでつづけられるのだと思います。
0楽子さんへ 作者名非表示にしていたので黙っていたのですが、非表示解除されたので! > 短歌はまったくの初心者なのですが、時々いろんな方から影響を受けて真似事をしたくなります。 この影響を受けた方とは、楽子さんと多宇加世さんでした! やんややんや! 「マスクの中で溺れている」の朗読は聴いていただけましたか? フォーラムにリンクを貼ったのだけど時間が経つと消えてしまうので、もしまだ聴いていらっしゃらなければこちらからどうぞ。一時間半もあるので、つまみ食いをおすすめします。 【タイムテーブル】 瞼に焼き付く光跡は君をかたどる/一足遅れた戦友さん 0:10:20 解説(第五連の後半が好きなんです!という話) 0:12:30 朗読 ぬら 死の磨きたて/多宇 加世さん 0:15:30 解説(短歌畑の作者と詩畑の私との差異のおもしろさ) 0:18:40 朗読 マスクの中で溺れている/楽子さん 0:21:35 解説(キュン死にしそうな件) 0:24:32 朗読 ママンへ/斉藤木馬さん 0:25:55 解説(作者の挑戦する姿勢を見習いたいという話) 0:31:14 朗読(こうだたけみなりの挑戦) 僕の獏、獏の僕/ABさん 0:33:52 解説(力説! 抜け感のよさ) 0:39:00 朗読(一箇所ごまかせないほど噛みましたごめんなさい) 木箱/みつきさん 0:42:50 解説(作者の言葉への向き合い方が好もしいという話) 0:49:00 朗読 排除/&さん 0:50:55 解説(作品の強度って作者のいない場で測れるのかも?という話) 0:56:35 朗読 しゅっせき/なかたつさん 0:58:50 解説(こうだの妄想ダダ漏れな読解) 1:06:50 朗読 「ビーレビ6月投稿作品朗読キャス」 https://twitcasting.tv/kouda_takemi/movie/639832644 改めて、ありがとうございました。
0わあわあ、こうだたけみさんだったんですね! パッと見でちゃんときれいに見えるところとか構成の美しさなど、納得です。 キャス見ました!Twitterログインしないと見れないのかな??と勘違いしてました。 お知らせありがとうございます。 可愛かったです!ちゃんとめちゃくちゃ可愛かったですよー! 特にバツ、バツ、バツの抑えかた、強めにいいながら少し低くなってるところはなるほどなー!!って思いながら聞きました。 こうやって否定的な感じとか、ばっさりと切られてく感じを出していくんですね。 他の朗読も聞いてますが、解説も面白くて、とくに「ぬら 死の~」は聞きながらウンウンと唸ってしまいました。 お疲れ様です!読んでくれてありがとうございました!
1楽子さんへ はい、こうだでした〜。 > 山上さんと加藤さんがもう一度出会うのかはわからないけれど、地球上に人間が二人以上いる限り、やまおりたにおりはあちこちでつづけられるのだと思います。 この〈地球上に人間が二人以上いる限り、やまおりたにおりはあちこちでつづけられる〉という意味を込めて、作者名非表示としました。誰の物語にもなれるように。 そしてツイキャスアーカイブ、見ていただけたみたいでよかったです。もし「見たけど大してよくなかったからコメントしなかっただけ」とかだったら迷惑かなあと思いつつ、えいやとリンクを貼って正解でした。よろこんでいただけてなによりです。 楽子さんの「マスクの中で溺れている」は、滑舌の観点からはかなり読みやすかったです。かわいさを出すのには苦戦したけれど。笑。自分はこう受け止めたよ、というのを表現するのってなかなかにむずかしいのだけれど、練習するのはとてもとてもたのしかったです。貴重な体験をありがとうございました。
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