盲癖 “ニヒル“

抜け殻は、君の一生だ。それは、愛でる程に腐敗していく。なおざりにしたくは無い。けれども、意味は無い。もうそこに過去はない。過去はそれぞれ疎らにあって、僕の中にその一部が、砂の様に暗い穴に降り積もっている。掬おうとすれば、それは、僅かに空いた、歪な指の関節の隙間から、水よりも無感触に、大半が滑り落ちては、見えない底へと落ちていく。辿り着けない。何故ならそれは、架空の思い描いた理想でしかないのだから。過去に、理想というものは存在しない。有限なるものには必ず結末が伴う。だから僕は、先の方へ手を伸ばしてみる。けれども白昼夢でも迷い込んだみたいに、まるで掴んだ感触は愚か、自らの指や手の神経が一切感じられない。掴めやしないまるで後終えた過去を取り戻す様な、息を引き取る誰かの手を掴む様な、それ程の虚無と無感触、強いて云うならば冷たさ、冷めた白い肌に再び暖かさを灯す様な、そういう無謀さが巨大な靄となって、私の身体を肺胞まで至って、今という連綿の経時の瞬間を、瞬間ならぬ永劫として凍らせた。節目は、無い。悪夢は、無い。寒さは無い。孤独はない。どれも、要らない。けれども、欲しい。要らない筈の存在が、知らぬ間に僕に組み込まれていた。気づけば僕の一部になっていた。嫌いな寒さも、夜の街灯が作る嫌に静かな影の林も、そこに蹲る本来の僕の心はいつも、何時も置き去りな外との寒暖差には、限りなく狼狽の衝動で自分を殺していく。飽くなき連鎖に投射する日々に、然程の変化は目に留まらない。だからこそ、見過ごされた連鎖の一つ、その一部始終をこの手で握りしめる為に、本物の価値を知る為に、本物の、自分よがりにならない為に、目前には茫漠とした闇が、静かに、うねりをあげて黒い波を漂わせている。灯台の光が向こうにチラチラと見えた様な、そんな気が、いやそうだ。必ず向こうに兆しの、希望の、もう僕が孤独で無くて良い、唯一の光が、其処にはあるんだ。手を伸ばそう、腕を伸ばして力一杯、ほら、もうすぐ其処だ。トトトツーツーツートトト奇跡は必ず起こる、叶うんだ。信じてさえいれば。、僕を殺すのは誰だ僕を殺すのは誰だ何処にいるかも分からない君は知らない僕自身も知らないけれども僕も君も君も僕もこの地上を沈めた空を仰いでいるそうして眠りつけずに、今日も明日という日差しを生み出して、昨日は過去に生きた僕に沈んでいく君も明日に掴まろうとして皆も既に溺れかけてるんだよ時間の海に呑まれて、波は砕けて、歪んだ心は現実ではない。夢想だけの世界に投射されて、怒りや憎しみは、大した力にはならない。弱さに大した力は無い。吐き違えた強さに溺れた孤独は、より現実に浮遊した無力さを露わにさせて、手に握り締めた血の付いた刃の冷めた色は、結局思いは、怒りは、憎しみは、それ自体に力がある訳じゃない。だから僕は震えながら露わにした。自身の弱さを、強さと吐き違えた憎悪を、感情自体に色がある訳じゃない。人が動いて初めて、無いものに色がついて、僕が感情を契機に動いて、初めて、君と云う白い身体には、君と云う白い肌には、傷付けた。君は僕を殺した。僕は僕を殺した。モーツァルトのレクイエムを夕陽に沈めて。もしそれが、理想と違う景色でも、決して、過去を振り返っては駄目。振り返らず、ただ前を向いていて欲しい。例え、この繋いだ手と手の間にあった、重なる余韻が思い出として残っていたとしても、それはきっと偽りだから。思い出の流した、涙の温かさだけ、どうか、これからも、その温かさだけは持って生きて下さい。どうか、それだけを願って貴方を忘れましょう。忘れられものなら、此処で今すぐにでも忘れてやりましょう。　熱りが冷めた頃、ビルエヴァンスのBminor waltz を古臭いステレオから流して、嗅ぎ慣れた香水絡む柔肌と共に夜を抱いてみるのも悪い気はしなかった。明晩に、葉巻の代わりに煙草をふかすのは少々アナクロな演出であろうか、けれども混迷を暈すには良い素材ではあるのだろう。黎明の影が、窓際に掛かる厚い白色のカーテンの隙間から濃藍を帯びてはみ出している。浮き出るそれは、ある種終わりを痛切と予感させて止まない。「君は、物事を紛らわす事には相当向いていないのね。」口紅のやけに濃い女はその指摘を置き言葉にして、私のベットで深い眠りに着いてしまった。かく云う私は、先刻から意識の混濁がめっぽうに酷く、煙草を二本程消費すると余計にその程度が酷くなる一方であった。孤独と云うものは、決して悪くはない。けれども勘違いは、時に回数の問題では無くて、その誤りの質が他者を一度のきっかけで奈落へと落としてしまう事を知って欲しい。詰まるところ、互いに安逸とした生活が、道化の偽りに徹する事で、繋がれた脆い結び目が保たれている事に対して盲目になってしまっていて、その綻びが相手を抉る事で露見した時には、最早手遅れであると云う事を。刑屍は、ベッドに横たわる。ロビリアの花の香りアイロニカルな君の様にいつか誰かの心潰していつかの僕みたいに身体もズタボロに壊して消えた美しさは誘惑してるまるで君が知ってたみたいに僕の弱さが強まってくのを彷徨うぐらいに寂しい朝隣で見かけた誰かの抜け殻讃美する程何か欠けていく謙遜だらけな人間不信こんな世間誰が生きれようと僕は僕に問う日はもう夜であぁ、もう捨てたがりなやつ君が僕にくれた冷めた愛情今夜も眠りにつこうかな明日君は居ないけれど冷めた夜風に花の残り香冷めたベッドに残る温かさ僕はこれからどうすれば良い？いつか覚める夢の跡そうしていつか僕も去る朝陽僕は見えない見えてる様で見えないのはきっと僕はどうしようないから今見た景色が確かだとしてもなんだかぼやけて見えるフィルター今日と昨日の変化は不毛でしかない求める人はきっと今もそうまるでそう見えてないみたいに見えてる人は常に盲目僕もきっと特にそうで毎日目隠し付けている光を遮る前が見えない

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作品データ

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作成日時 2020-09-10
コメント日時 2020-09-11

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