小指の第二関節あたりに腰を落ち着けている
黒い物体は紛れもなく母だ
暗い泡の響きそっくりの 声ともとれぬ低い声で
やれ箸の持ち方が悪いとか
あの女はどうも気に入らないなどと
ことあるごとに口をだしてくる
小豆ほどの変わり果てた形になって
なお幅をきかせたがる醜い母よ
しかし考えてみれば
気味悪い腫れ物であるにせよ ずいぶん
ちいさくなったものだ
時折はしがみついているようにさえ見える
いずれは消えるのかもしれない
あるいは消えず
(いくつになってもなんとやらで)
しつこくついてまわらないともかぎらない
例えば私が皺と白髪だらけになってしまっても
いっそ削り落とすか 潰してしまおうか
そのとき私は
取り返しのつかぬことをしてしまった後に似た
烈しい痛みを感じるのだろうか
疎ましい存在であっても
作品データ
コメント数 : 7
P V 数 : 1637.8
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 8
作成日時 2020-09-02
コメント日時 2020-09-07
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合ポイント | 8 | 8 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 0.7 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0.3 | 0 |
エンタメ | 0.7 | 0 |
技巧 | 0.7 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0.3 | 0 |
総合 | 2.7 | 2 |
閲覧指数:1637.8
2024/11/21 22時39分56秒現在
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ふと、父の左の肩甲骨の上あたりにもMOLEと言うのですか、強大な膨らみあったのが、時日の経過で縮んで行った事を思い出しました。それが父の母、私から見て祖母にあたる人の来歴の痕跡なのかどうかは知りませんでしたが、私にとっては父方の祖母。何か自分を恐懼させるものがあったような気がします。この詩では母との、実母との葛藤と言うよりは、ライバル関係のような、フラットな対抗意識があったのではないかと少し深読みして見ました。
1エイクピア様 読んで下さってありがとうございます。 “痕跡”というとぼくが思い出すのはエディプスの釘の疵(エディプスというのは「疵」という意味でしたね)です。あれは父王が赤子の王子を流す時につけたものであり、後には神託が叶えられたことを証しするものでもあった。“痕跡”が語るものの中には窺い知ることのできない恐ろしい物語があるようです。無論、今作はそうした大それたものでは全くないですが。ともかく、エイクピアさんが読みつつ記憶につなげてくださったこと、深く読んでくださったこと、嬉しく思います。コメント、ありがとうございます。
0本文を読んで、タイトルがジョークになっている所に吹いてしまいました。ストレートですね。そんな妖怪の様な姿になってもまだ母はステレオタイプに同じ事へ口出しして、多分人間だった頃から変わらないし、私達も敵わない。そうだろうな、と懐かしい気がしました。まだうちの母は存命で、人の形でいますが。
2良作と思います。 異なる母、と書いて、異母。もはや常識的な会話や立場でものを話せる状態になく、ぐちぐちと他者へ不満を垂れ流す存在というモチーフはどのコミュニティにも一定数存在しますが、詩としての展開、詩としての表現が光っているがゆえに、あらゆるテクストの中でも詩でしか表現できない領域の中で作品が整えられているように思います。 一人称視点で憐れむように母を見る姿が描かれますが、母を自己投影し、まさしくイボをどう扱うか、について後半語られていきます。最後の「疎ましい存在であっても」から私が感じたこととして、憐れむべき、そして疎まれるべき存在となってしまった母を、それでも感情の芯の部分で愛しているという、遠回りな愛情を思いました。愛を語ることについて、愛というものは大変複雑怪奇でありなまじ手を出すとやけどをしてしまう難しいテーマに思いますが、本作はイボを切り離したときの「烈しい痛みを感じる」視点を通して、まさしく母への愛を思うことができるのではないかと思うのです。
1AB様 読んで下さってありがとうございます。お察しの通り、腫れ物はありませんです、はい。 日本語には「目の上のたん瘤」などと人との関係を身体的に表す表現があったり、家族を「身内」と表現したりするので、異物感やそれに対する感じが多少奇妙であれリアリティをもって表れればいいなあ、と書きながら考えていました。ですのでありがたい感想をいただけてとても嬉しく思います。ありがとうございます。
0ネン様 読んで下さってありがとうございます。ご指摘のように「異母」は「疣」にかかっています。というかもともと同音異義語であることに着想を得て書き始めました。 自分の身体に身内が疣としてくっついていたとしたら気持ち悪いでしょう? でもぼくはこうも思うのです。育つ過程で親の影響を意識的無意識的に受けている、つまり「身につけている」んじゃないかと。それは「疣」のようには目には見えないけれど、心のなかに良くも悪くもくっついていると。どっちみち、かないそうにないのですが笑 コメント、ありがとうございます。
0ふじりゅう様 読んで下さってありがとうございます。「愛というものは複雑怪奇」というのはおっしゃる通りですね。好ましい部分ばかりでなく疎ましかったり嫌悪したり、まさに様々な感情が絡まり合ってひと言では言い切れぬものがあると思います。むしろ、そのような「複雑怪奇」な有り様をひと言で言い表したものが愛であるのかもしれません。そのような「愛情」を気味悪さの中に忍ばせてみたのですが、光を当てて下さって嬉しく思います。コメント、ありがとうございます。
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