もう、訳知り顔で色恋のウタを書くのは恥ずかしいよ。ポツンとそう言って、彼はメモアプリに書かれた文字たちを全消しした。
どうして?アンタが書く文章きれいなのに。残念そうな声色を出して言ったけれど、ホントは鼻でも鳴らして私はこう言いたかった。
「今更なのよアンタ。馬鹿じゃない?」
厭世家気取りで過ごしていた学校生活の姿。実はあの頃少しだけ惚れてたけど、今じゃそんな自分を思い出すのも恥ずかしい。
……恥ずかしいのに、またこうして二人で会うようになってることが、阿呆らしい。
「だってそうだろ。一人でずっと過ごしてた俺が恋がなんだと言える立場じゃない。……最近そんな自分がやっと分かってきたんだ」
そうね、アンタは一人が多かった。毎朝一人で学校に来て、休憩時間はどこかに消えてて、だいたい一人で帰ってた。でもね、ずっとってことはなかったじゃない。
「たまに寂しくなって、慰めのつもりでロマンチックな恋をつくって、それでそれっきりだ。腹の底じゃ自分がそんな人間だって分かってたんだけど、認められなかった」
アンタはずっと一人じゃなかった。馬鹿なアンタに惹かれてた馬鹿な私とよく遊んだじゃない。隠れて文章書いてること話したのも私にだけじゃない。
「でも、やっぱりきれいだったよ」
「……恋じゃなくてもおはなしは書ける。もう馬鹿馬鹿しくて書いてられない」
「なら今は何を書いてるのよ」
「…‥日記だよ。ただの、日記だ」
ああ、そうだった。アンタはそういう顔をするんだった。不満げな、眠たげな目線を明後日の方へ向けて口を尖らせてるんだ。そういう顔が気取ってるんだってこと、まだ気づいてないのかな。
にしても、裏ではアンタを好きになった女の子は何人かいたのに、それも気づかなかったんだな。
五時を告げる鐘が鳴る。
「じゃあ、もう書きたくないんだ」
「……書きたくない。いや書けない。何も浮かばないからさ、書きようがない」
「書けるなら書きたい?」
「どうだろ。もし書くならその時は、恋人がいたほうがいいな。今じゃそんなの待ってるだけじゃ現れないってことも知ったんだけどな」
五時を告げる鐘が響き渡る。
「なんでまたアンタと二人で会うようになったんだろうね」
「え……」
「連絡してくるのだいたいアンタからでしょ」
「……」
「……。ねぇ、なんで私と会おうと思うの?」
「…………」
五時を告げる鐘が鳴り止む。
「……意気地なし」
「……分かってくれよ。恥ずかしいんだから」
「ハッキリそういうこと言うのも意気地がないんだって知ってる?」
「……知らなかった」
「馬鹿よねぇ、アンタって」
「うるさいな。……分かった。よし、言うぞ?言うからな!!」
彼は声を荒げると、そのままゆっくりと深呼吸を始めた。その姿を見て、ウブなかわいいヤツめと微笑ましく思った。ほんの僅かな間だけ。
真っ直ぐに前を向いた姿勢。
三度目の深呼吸が始まるはずだった……。
でも、どうにもそれは「叫ぶ」体勢のようにも見える……。
「え、ちょっと馬…」
「!!!!!!!!!〜〜〜〜〜」
――。
作品データ
コメント数 : 1
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作成日時 2020-09-02
コメント日時 2020-09-02
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 3 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 3 | 0 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 3 | 3 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 3 | 3 |
閲覧指数:917.7
2024/11/21 23時02分54秒現在
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小説家志望者の愚痴だとか、過去の恋の復活だとかとは思えない。かと言って「アンタ」が眩しいと言う訳でもなさそう。ただの日記・・・自嘲ではない。終わりらへんがちょっと分かり辛く「馬」が象徴的でした。
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