「なんかさぁ、有名になって俺はここに存在してんだぜって示したいんだよなぁ」
「あぁ分かる。生きてる証明みたいなね」
用水路の影でタバコを吸う俺たちはまだ十代だった。
使える金だって一万円もなかったのに、どうして毎日遊べてたのか…。大人になると忘れることのひとつだ。
酒が欲しくなればスーパーからいくらでも盗って帰ったし、タバコは皆して老け顔のヤツに頭下げて買ってもらってた。振り返ってみればクサい青春小説のようなことを当然のように繰り返していた。
誰が誰とデキたとか、誰が誰に惚れてるだとか、暇を持て余した十代達は、平然と他人の人生に土足で踏み込めていた。人の恋路を知る辛さを、ちゃんと知らずにいた。
「お前さ、あそこで二人でタバコ吸ってた日覚えてる?」
「ンなの何回もやってたろ。一々覚えてねぇわ」
あの用水路が見える所でいつかを懐う俺たちに、既にタバコは用済みだった。
「自分が生きてること、それを世間に知ってほしいから有名になりたい、って話したんだぜあの時」
「……あぁ。なんかそんな話した気がする」
そして苦笑いしながらこう言った。
「んなことしなくても、頑張ってりゃ見てくれんのにな。思春期って怖えな」
「……怖えよなぁ」
あの日の俺たちが、影から顔を覗かせているような居心地の悪さを感じながら、それでも馬鹿げてた話だと思わずいられない。同調圧力を弾いて過ごす自分を、「俺だけは特別だ」って信じて疑わなかった。その姿すらも、よく転がっている青春のひとつだとは知れなかった。
「大人になったら起きて我慢して寝るだけになるんだ。今のうちに遊んでおけ」
そう話す大人たちが腐るほどいたけれど、俺たちはそんな大人にならずに済んだ。受け流せるだけのストレスと、少しは遊べる程度の月給は、俺たちを腐らせることなく大人にしてくれた。
またいつか、大声で自転車を漕いでゲラゲラ笑い合ってみたり。またいつか、人気の少ない壁に落書きしてみたり。またいつか、用事もないのに取り敢えずみんな集まってみて、あいつはバカだ、こいつもアホだと言い合いたい。声のボリュームも忘れて。
――それでまた明日に思いを馳せるんだ。
――それでは、また明日。
作品データ
コメント数 : 3
P V 数 : 951.2
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作成日時 2020-08-06
コメント日時 2020-08-08
#縦書き
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2024/11/21 23時05分56秒現在
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書かれようとしている光景や心象はとても共感できるものです。1つ気にかかったのですがみやびさんの想定される話者は今でも一人称に「俺」を使われているのでしょうか。「僕」や「私」色々な呼び方があって年代と共に変化することもあります。その辺りを想定して書かれてみるとより深みがでたのではないかなあと愚考しました。
1感想読み終わって、パッとは「そうそう変わるもんじゃないだろう」と思ったのですが、確かに所詮は作り物ですからリアルに考えずもっと創作的にと言いますか、そんな風にしてみると面白いですね。 考えさせられるコメントありがとうございましたッ
1確かに。一人称がそうそう簡単に変わってしまってはまずいかもしれませんね。私自身が「僕」→「俺」→「私」と変わる経験をこの20年ほどでしているのものですからそう思ってしまいましたが、言われてみればそうそうあるものではないかもしれません。とくに「俺」→「私」の変化は私にとってかなりエポックな出来事でした。
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