詩論以前 - B-REVIEW
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詩論以前    

 私はもうけっこうな年齢だから、夢や予言はだいたい思い出になりつつある。言わば越境を終えようとしている。それに才能の薄さもあって、私が造形ということに積極的であったのは、若い頃のごく短い期間でのことであった。効果や印象を狙ったのは昔のことである。たとえば、天国と言われてもぴんと来ないくせに、無理矢理想像して天国のことを書こうとした。考えるだけの体力があったのだろう。しかしそうとは言え、今もこの文を書いている以上、私はやはり読者のことを考えているのであり、造形することや、効果や印象を狙うことから完全に解放されているわけではないと思う。ただどこかこういうことに対して淡泊になった気がする。  過去に自分が書いたものを見ると、ほとんどが単純に、かつ過度に、自分の経験をもとにしたものであることに気づく。そして書けば書くだけいっそう恥を深くしていったような感じがする。好評をいただいたもの、良かれ悪しかれ注目されたもの、酷評を浴びたもの、無視されたもの、公にしなかったもの、さまざまであるが、それらがどれも恥ずかしいものであることに変わりはない。もちろん、自分の経験をもとにして書くことは、それをどの程度反映させるか、それのどれだけの量を含ませるか、それをどのように配分するかの違いはあれ、誰でもすることであるし、主な手法の一つとして認められることである。自分の経験とまったく無関係なことを書く手法もあるが、私はこれまでにそれを試みたことはない。  私はこの小文を「私はもうけっこうな年齢だから、夢や予言はだいたい思い出になりつつある。言わば越境を終えようとしている」と書いて始めたが、このことは、これまでの私の制作態度の宿命だと思われる。書き手の中には、年齢にかかわらず夢や予言を現在進行形で書ける人がいる。夢や予言が過去の思い出にならない人がいる。越境しない人がいる。こういった人たちと私とは、どういった点で異なるのだろうか。それを考えたとき、私の制作態度、つまり、自分の経験をあまりにも直接的に書くという制作態度を思わずにはいられない。自分の経験というものは過ぎ去っていくものであるから、そして私はその自分の経験に単純に、かつ過度に依存しているから、宿命として私は思い出だけしか書けなくなるわけである。このことは、想像力の欠如を意味し、造形に向かう積極性の欠如を意味すると思われる。私はこうして越境することになる。どこへ越境するのか。それは、芸術の外へ、である。芸術の世界から見て野生のものになるわけだ。  では、芸術の中にいる、生きている、あるいはこう言ってもよいだろうか、芸術に飼われているのと、芸術の外で野生のものとして生きているのと、どちらがいいのだろうか。これは人それぞれであって、いいとか悪いとかは答えられない。ただ私は、詩を書きたいと願っているから、越境などということはしたくない。芸術に飼われていたいと願うのである。  もしかしたら、飼われるという言い方に抵抗感を覚える人がいるかもしれない。でも私はこの言い方をマイナス的な、あるいはネガティヴな意味をこめて使っているのではない。私たちの生活を想像し直してみるといい。人は互いに寄りかかり合って生きている。単独で自存している人などいない。どんな分野でも狭さはある。が、互いに交流し合っている。だから本当は狭くない。詩の世界は人文科学だけで成り立っているのではなく、自然科学や社会科学が注入されていることも多い。飼われている状態は人間の正常な状態であり、何かを創造するために必要な状態である。断じて野生であってはならない。  この小文もひと息に読むのにちょうどいい長さになったので、そろそろ結びたい。私がこの小文を書いたのは、私自身が越境などという危ないことをし終えようとしている、このことに対する危機感からである。同じような人がいたら、引き返すように推奨する。何かの分野に所属することが大切である。私はもしかしたら、依然として自分の経験を書き続けるかもしれないし、この小文自体が私の経験から出たものであるが、ここに何らかの改造を加えることが必要だと思う。野生であることから遠ざかるためにである。タイトルを『詩論以前』として書いたのは、詩の世界から出てしまっては詩を論ずることができなくなるからであり、私自身を詩の世界にとどまらせたいという意図からである。


詩論以前 ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 0
P V 数 : 919.8
お気に入り数: 0
投票数   : 0
ポイント数 : 1

作成日時 2020-07-25
コメント日時 2020-07-25
項目全期間(2025/04/04現在)投稿後10日間
叙情性00
前衛性00
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音韻00
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前衛性00
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閲覧指数:919.8
2025/04/04 12時45分18秒現在
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