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春雪と彼
「おいで、桜が綺麗だよ」 桃の蕾が陽に輝き可愛らしい朝、淡い光が群を成し川辺に佇む夏。穏やかな橙に端から染まり、空気が緩やかに冷たさを増す秋。細い枝葉に降り立つ雪が、月に照らされて青く輝いていた冬。朝靄が美しい朝、空の晴れ渡る午后。雨音がざわめく夜。 丑三つ時に属するそのひとは、四季の楽しみ方を教えに、度々この学生の元を訪れた。 「春の雨が、降らないようにしたいです。あと、雪も」 「成程、花弁が散るのが嫌なのだね」 柔らかな雪が、はらりと枝から零れ落ちる。四季の折々を、父親のようなそのひとと見ていた。その際、凍る桜をこの目で見たことは無かった。しかし、それはとても美しい。美しかった。花をも凍らす程の気温の低下、煌めく吐息。仄かに色付く花弁に、降り次いでゆく結晶。誰かに伝えたくなる、そんな光景が広がっていた。 「雪と桜色が同時に見られるなんて、滅多にないけれど、僕は」 父親のようなそのひととは違う。普段隣に居る幼馴染が「桜が一等好きだ」と、一度だけ零した事がある。こころの底に横たわった言葉など何も言わない彼が、一等好きだと、そう口にしたのだ。 「自然現象には誰も勝てない。だけど今は心底、この雪が憎たらしいのです」 「しかし案外、彼は気に入るかもしれないよ」 舞う雪が降り止んだのは、それから二日後の朝。気温の上昇と共に、緩やかに溶けつつある桜色の氷を見て、幼馴染の彼は、海色の目を輝かせて「綺麗だ」と呟いた。
春雪と彼 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 897.4
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-08-07
コメント日時 2017-08-14
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
雪月花を描いた、小景、のような素振りながら・・・ この登場人物たちは、果たして「人間」なのだろうか、と不思議な気持ちになりました。 季節を司る、時の精のようでもあり・・・自然界の妖精のようでもあり・・・。 花と雪、あるいは花と氷。共にはありえないものが共にある場所は、死の世界でもあるような・・・。
0丁寧さは感じますが、やや陳腐だとも思います。綺麗な情景を描写すれば詩になるということではないと、思いませんか?とはいえ、例えば「四季の折々を、父親のようなそのひとと見ていた。」などの詩句は、優れたものであると感じられました。
0こんばんは。 私もこの詩にやや陳腐な印象を受けましたが、美的感覚は人それぞれなので、一概に陳腐とは言い切れないかもしれません。 父親のような人や幼馴染みの人との会話や交流にもっと焦点をあてたほうが良かった気がします。
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