第一の憧憬 【蟻】
氷が溶けた音が響いた
グラスにぶつかる冷たい音が
私はペンを滑らせる
馬鹿真面目に、今も生きている
セミの声は、どうせ死ぬのにうるさくて、
ああ、
そうか
「どうせ死ぬ」からうるさいのか、と
理解してしまった
そうだ
こんな私でも
誰かにとっては騒音なのだ、ろう。
死んで地に落ちたセミの軀をよじ登り
群がり牙を突き立てる蟻たちのことを想う
悪寒が走り、鳥肌が立つ
私にとっての蟻とは……
生を報いて、死を呼び込む
シャーペンの文字をインクで潰す
エアコンの効いた部屋で
爆弾を作りたい欲求を殺してまで
第二の憧憬 【証明写真】
泣きたくなるくらいの真顔
で、私はそこにいた。
ぼんやり青みがかった白い壁を背にして
誰を見つめるわけでも、
何を見ているわけでもなく
ただそこにはない
残酷なカメラのレンズを
恐る恐る覗き込んでいた。
私は誰、か
もう分かってる
くせして、知らないふりを
続ける、自分を守るために
今にもバラバラになりたい
衝動を噛むように結んだ唇
に、滲む血の味
第三の憧憬 【於母影】
学歴や長所・短所を埋める。頭のおかしい子どもが空を真っ赤に塗りつぶすように。私が私を殺すように。過去を肯定するかのように、否定する日々にいっそ狂えてしまえたら、って思うよ。思うだけ。そう願うだけの私はどうせ凡人だから、結局、なにをやっても正気でいるし、手首は見ての通り真っ白なままだし、死にたいって口で言うのは簡単だから、透明な鋭いもので体に刻む。痛みで自分にわからせる。弱さと脆さ、どうしようもなさを。一切合切immoralに成り果ててやりたい。本当は、生きてるだけで褒められたい。immoral educationを施した猿たちとねんね。ああ、もう!
はっきり言って、なに言っているのか全然分かんない! でも書かないとやっていけない。気が滅入る前に白紙に死を刻みつける。この世は! 嘘つきばかりが仕事をもらえる。ここでは誰もが仮病の患者。ああ、ああ!!!!! もう!!!!!!!
趣味の欄にセックス?って書きたい!!!! 趣味の欄にセックス?って書くから、特技の欄には何て書いてほしい? あなたは何をしてほしい? 言ってごらんよ、正直に。真面目な話は嫌いじゃないだろ、キモ。アンチテーゼの逆を行け、逆巻く波が脳を揺すり起こし過去を呼び込む。澱、固まった思考に剥き出しの躁が暴れまわる! 夜! あああああ、なんでまた、陽炎の奥から声が聞こえる。透明香炉の幻聴に耳を澄ませば、蘇る。あの鋭く尖った八重歯の白さが、鼻の奥を刺激する。目頭がまた熱を持つ。気化した夏が揺れて漂う、67度の照り返しから、ほっそりとした影が手招く。光の中で眩しいあなたに触れる、於母影に指を伸ばして
第四の憧憬 【蝕甚】
(幸福な夜更けに鬱は目を覚ます)死に損ないの躁は朝暮れ
第五の憧憬 【戯言】
タイムマシンをハイジャックして
7年前に行きたい
私の通う高校の
私がいたあの教室めがけて
手作りの手榴弾投げたいよ
私を一番殺したい私が
死んでも私はどうせ死なない
光の粉にもなり得ない
ありえない絵空事
世迷言を抜かして笑えば
私は病人になれればいいな
これは呪い、みたいな話
幸せみたいな不幸の歴史
第六の憧憬 【冷夏】
どうせ誰もいなくなる
知らない誰かと笑っていられる
キチガイみたいに家族を作って
正気のふりしてナイフを向ける
私はどうして悲しいか
悲しいくらいに理解していて
例えば冷夏の砂浜で
浸したあなたの白い足
柔らかそうな足の爪
剥がしてしまいそうな衝動を
抑えて笑ったフリ、してた
どうせあなたもそうだった
少し濡れた髪
キラキラした水面に
溶けてしまいそうなふくらはぎ
禁断、みたいな甘い蜜
呪縛、みたいな思い出
死にたい思いが貼り付いた
アルバムにない私の顔を探して、探して
あなたを見つけた夜ばかり
黒く、黒く黒く枕に染み付く
第七の憧憬 【?】
学歴を並べることに何の躊躇もなくなったことで、私が社会に順応してきたことを感じる。嬉しさよりも諦めに近い、それは私に濡れ衣を着せて、猫をかぶせて可愛い少女に仕立て上げる。リップをつけるように殺したい、あの子はもうどこにいるかも分からない。
ハートマークはお前らのためじゃない。
暮石のような中指が今日も胸中に立ちました。
もう何度目の夏でしょう。
今年の夏も、どうせ暑くて苦しいのなら
いっそ冷夏のあの浜に
逝きたい
作品データ
コメント数 : 3
P V 数 : 1548.4
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 1
作成日時 2020-05-14
コメント日時 2020-06-04
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 1 | 1 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 1 | 1 |
閲覧指数:1548.4
2024/11/21 22時53分41秒現在
※ポイントを入れるにはログインが必要です
※自作品にはポイントを入れられません。
ほんと、軽い感想で失礼 1・2・5・6が好みです。
1貴音さん! 感想ありがとうございます。
0綺麗にきっちりまとめられているので、どうコメントしたらいいかさっぱりなのだけど、綺麗すぎるという感じはちょっとします。全体として手の内で収まってしまった感じ。とはいえ、連作でひとつのテーマで書いていくのって大変だろうから、それをこんなに綺麗に整えてしまえるってやっぱりすごい。
0