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『ハッピーバースデー』
原因不明の熱に浮かされていた頃 もう一人の私は 林檎を齧っていた 軸のところに蜜が集まっていて 本当に美味しいところは 芯まで齧ってみなければわからない 馬はねぇ 可哀想だね なついたらね 死ぬまで走り続けるんだよ さよならの弾を撃ち込んだ手を 見つめながら泣いた男(ひと) 相手が人でなくてよかったと 思ってしまったのは 人であるわたしの傲りか 世紀末にいってしまった人は 今世紀を見られなくて 可哀想だね いや 見なくて済んで幸せだよ 熱は何故出たの? あんなに一生懸命生きてたのに? 神様はどうして? だから熱が出たんだよ 神様からのプレゼント 林檎を齧ったイブは 今何処に わたしのことが嫌いなあの人は わたしの好きな匂いが嫌い 息がしにくくて嫌なのよ 何とかして欲しいわ 街はキンモクセイの匂いでいっぱい! タオルに染み着いた柔軟剤 デパートのね 棚に並んでいたパジャマの匂いがするの そう あの時 あのクリスマスの夜に 新しく買ってもらったパジャマの匂いがするの 洗い立てのタオルに顔を埋めて パジャマの匂いを嗅ぐ 幸せなあの夜の パープルの包装紙 三日月と銀色のラメが鏤められていて 月から生まれた星の赤ちゃんが キラキラ笑いながら降っていた あれは違うよ あれは ウェンディーからの贈り物 ピーター・パンから貰った魔法の粉を そっと振りかけてくれたのかしら? 中から出てきたのは 櫛とリップクリーム 髪をすくとね ウェンディの青い瞳とブロンドの髪の毛が甦るの 唇に塗るとね 甘酸っぱいキャンプの夕陽が落ちていく 馬はねぇ 可哀想だね なついたらね 死ぬまで走り続けるんだよ 神様からのプレゼントは 何だったのだろう? 好きなもののために 死ぬまで走り続ける事ができるだろうか これから 何が幸せで 何が可哀想か 別れる寂しさに耐えるなら 会わない方がよかったのか 艶やかな馬の栗毛色の身体が こぬか雨の中を躍るように駆け抜けていく ベッドの上で 林檎の甘さを想い出しながら 洗い立てのタオルに顔を埋めて幸せなあの夜の気持ちを抱きしめる ただいま もう少しこの世界にいるよ
『ハッピーバースデー』 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1480.1
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2020-05-09
コメント日時 2020-06-15
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
とても好きです。 キラキラした(美しい、という意味ではなく)ものが熱を出してうなされている少女のうえにふりかかっているような感じ。 たくさんの感情や思い出が泡のように弾けていく、 でもそれらがちゃんと繋がっているのを感じています。
1楽子さん、 大変遅くなりましたが、コメントをありがとう。そしてこの詩を好いて頂いて、とても嬉しく思いました。 熱にうなされた時、だけではなくてとても苦しい時、幸せな想い出があるのは本当に救われますね。 そしてそんな時でもなければ、自分が如何に恵まれていたか、幸せだったかにも、人は気づかないような気がしています。 そんな瞬間を沢山持ちたいし、そんな気持ちを込めた作品を、これからも書いていきたいと思います。 ありがとう。
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