「信号が青になったら渡る歩行者のように」
友人がくれたのは誰も知らない作家の本だった
栞は主人公の恋人が俯いて目を伏せた125ページ目に挟まれたままで
どうやら僕は どうやら僕は
何度生まれ変わっても
何度生まれ変わっても
変われない 変わらないらしい
煙草が火の痕をつけるのはカーテンの傍にある木箱の隅で
コンビニで手に入れたジャンクフードは食べきることなく
後ろ向きな言葉のクズ箱に放り込まれる
アンドロイドとはほど遠い僕の脳はインプットとアウトプットを交差させ
隠した秘密を共に連れて
明日にページを打とうとしている
僕はどう足掻いたって どう赤らんだ目で
顔を洗って 体に付着した埃をシャワーで洗い流したって
傷が入るのは咽喉にある同じ火照りの部分
僕には分からないけれど
それはきっと あの日
太陽の海へ向けて漕ぎ出した足跡の名残のせいだ
何度言葉につかえても もう一度言葉を吐きだし
何度タイプするのをタメラッテモ 僕はここに帰着するしかないらしい
美しい相貌の青年が投げたコインは
僕らの届かないところにまで
弾むように飛んで行ったけれど
忘れないつもりだったあの歌も
いつの間にか僕の記憶から自然と消去されるかもしれないけれど
あの太陽の海の音だけは 鼓動だけは 匂い 肌触り 歓び 跳躍 躍動するリズムだけは 僕から離れないでいたんだ
走り抜ける列車を挟んで遠くに見える友人の姿が
知らない間に遠ざかっていく
彼は気づいたはずだ
僕は決して 彼の愛読した
「信号が青になったら渡る歩行者のように」を
最後まで読み切ることはないだろうことに
羽根 白い鳥の落とした羽根が彼にも そして僕にも
降り注ぎ 舞い落ちてくる
もし仮に
最後に目にするのが
去り際に僕の肩を叩く友人の寂しげな目だったとしても
それは構わない
別離の 別れのT字路で
僕も彼も穏やかに手を振りあう
この世に終わりがあったって
僕は君とは同じ道を歩むことは出来ないよ
ほら 聴こえてくるのは極彩色の鳥があげる
咆哮にも似た旅立ちの鳴き声
僕は親友の姿が消えて見えなくなるまで手を振っていた
冷たい手の温もり 涙 昨日の雨 交わした手と手 祈る掌 歓喜の抱擁 乱舞する陽射し
すべてが消え失せても
そこにあるのは
光 こぼれ落ちる 溢れ出るほどの眩い光
今 僕は
踵を返して歩きだした
作品データ
コメント数 : 5
P V 数 : 1443.5
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作成日時 2020-05-02
コメント日時 2020-05-03
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 2 | 2 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 2 | 2 |
閲覧指数:1443.5
2024/11/21 23時25分28秒現在
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作中話者の「僕」は、本当は、友達と同じ道を行きたい。 でも、何かしらの理由で、行けない(と思い込んでもいる)。 僕は、きっと「僕」は、行きたい方に行けると思いますよ。 友達の背中を追って、さよならなんてさっきまでの話だって、駆け寄れると思います。 実際、最後に、 >踵を返して歩きだした これは、友達を追って駆け出しているようにも読めます。 本当の気持ち押し殺して賢いふりして諦めるなんて、ある意味男らしくないかもしれませんね。 むしろ、バカだって笑われたって、ああ、バカさって答えて、自分の信じた道を走っていくのが、本当の男らしさなのかもしれませんよ。 きっと、友人が言いたかったことは、 もうとっくに青信号だ、渡れ、渡れ、 ということだったんじゃないかな。 だから、 もう固定観念にとらわれていないのだから、進みなよ ということだったのではないかと想像します。
0トビラさん、コメントありがとうございます!この詩は裸で何の文学武装もせずに書いたものです。それゆえに分かりやすいな、平明だなと感想を持つ人がいらっしゃるだろうことは容易に想像出来たのですが、裸で文学武装せずに作品を公けにするところにまで持って来るのは結構大変なんだぜ?という僕の感覚をレスポンスとしてお届けするにまずは留めたいと思います。ありがとうございました。
0取繕わない分、素の力量が試されますからね。 一糸まとわぬ、鍛え上げられた裸での勝負ですね。 そういうのは、闘いの場に立つことだけでも勇気がいると思います。
0そうですそうです。わかっていただけて嬉しいです。
0沙一さん、コメントありがとうございます!そうですね。冒頭でネタバレは勿体ない。ただどうしても持って来たかったんですよ。このフレーズを最初に。その思いが先走りしすぎて冷静な判断がひょっとして出来なかったかもしれません。でもタイトルが魅力的だと評価してくださり、嬉しい限りです。あと、少し描写が過剰だったかもしれません。技師、技に溺れるみたいな。もう一度チャンスがあれば推敲したいくらいです。 最後に沙一さんの仰った「信号を渡った人は天国へ行った人」という解釈、とても好きです。ある意味では安全な道を辿り天国へ行った人々だと言えるかもしれません。信号を渡った人々。とにかくも奥行きの増す感想、解釈ありがとうございました。冥利につきます。
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