きらいだよ
君は不機嫌そうにその五文字を吐いた
はじめてわたしがそれを聞いたのは、
たしか通学路にあるきつい坂の途中だった
私のとなりに並んで駅へ向かう君は
ぱっちりとした二重を不快そうに瞬かせて
はっきりと口にした
きらいだよ、と
蒸しあつい空気にとけたその呪いは、
わたしのからだにまとわりついて
坂をのぼる足どりを重くさせた
ひとあし先を歩く君のボブがゆれる
わたしはそのときはじめて、
おそろいの髪が鬱陶しいとおもった
じわりと首筋に寄生する汗が
切りそろえたボブの内側を絡めとる
ああ、きもちわるい
わたしは叫びたくなった
わたしの、
君を見つめる焼き切れそうな視線も
君に向かっていく分別不可能な感情も
君を殺してしまいそうな独占欲も
ぜんぶぜんぶ、きもちわるい
きらいだよ、
じゃなくて
きもちわるい、
って言ってよ
わたしは
馬鹿で、
阿呆で、
夢見がちで、
自己中心的で、
ご都合解釈の常連客だから
君の吐く
きらいだよ、
なんて信じられない
君がわがままをいうたびに
わたしの話にわらうたびに
君がわたしをにらむたびに
わたしの髪をいじるたびに
きらいなんてうそのくせに
わたしは何度もそうおもう
君の吐く きらいだよ、は
わたしにとって宝物だった
あたらしい制服に身をつつみながら
桜のはなびらを踏んで帰った春も
まっしろのブラウスに汗をにじませながら
日傘をくるくるまわして帰った夏も
つめたく吹きつける風からにげるように
マフラーに顔をうずめて帰った秋も
部活をやめて
並んで帰らなくなった冬も
きらいだよ、
と吐く君は
いつも同じかおをしていた
それは今も
わたしの脳裏に鮮明に焼きついている
いやそうにしかめられた眉が
すこし短めに切りそろえられた前髪から覗いて
わたしがだいすきだった猫目は
いつにも増してじっとりとわたしを見つめる
そして
きらいだよ
そう動いたくちびるの両端が、
さいごに一瞬あがるまで
永久不滅のわたしの宝物
きらいだよ
たった五文字に君がこめた感情を
夏がくるたびにわたしは盲信する
きらいだよ
夏のはじめ、
君がわたしにかけた呪いは今年もとけない
作品データ
コメント数 : 1
P V 数 : 1657.1
お気に入り数: 1
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ポイント数 : 6
作成日時 2020-04-27
コメント日時 2020-04-28
#現代詩
#縦書き
#受賞作
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 3 | 3 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 2 | 2 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 6 | 6 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0.7 | 1 |
エンタメ | 0.3 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 2 | 2 |
閲覧指数:1657.1
2024/11/21 22時46分05秒現在
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いいセンスだと思う 「わたし」は女の子かなと思って読んでいくと あら相手も女の子だと少しびっくり そしたら「わたし」は男の子なんだろうか いやそんな風でもない気がする なら女の子同士の恋愛(友情?)の話なんだな と思った 題名のチョイスよし きらいだよのキラーフレーズもよし(使う回数をちょっと減らしてもよきか) あと地味に文章も上手だとおもう もしこのポエムの通りの若い書き手ならどんどん続けていってほしいな と思いましたとさ
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