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それでも街は廻っている
夜になる頃に、猫が暗い方へと歩き出した。 見知らぬ若者が数名、空き缶を灰皿に公園で談笑していたが、それには気付かなかった。 私は本屋で補充と整理の仕事を黙々と熟していた。 自宅の窓から望遠鏡で私を覗いている男は独りごとを言った。 「星空なんか見るよりも綺麗で面白い」と。 夜空はそれに言い返す言葉が見つからず、平等に街の全てを照らしていた。 此処は…こんなにもモノに溢れてしまっているっているのに 本当に大事で必要なモノっていうのは、遠くへ行かないといけないって事を若者達は知っていた。 手頃で直ぐ届く場所にそんなものを置くなんて出来ないし、したくもない。 だってそうすると汚してしまうし、安易に触らせてしまうからだ。 だって若いってだけで暴力的で、未熟なんだから。 多分、皆もそうなんだろうけど、そんなモノは最初から無いフリをしている。 「クラブまでは歩いて15分くらいだから、そろそろ行こうとしようか? 」 その場が全てのフリをしに若者達は公園を出た。 暗い方へと歩いた猫には集会場があり、そこには既に何匹もの猫が集まっていた。 ルールと言うか、習性と言えばいいのだろうか…常に目を合わせないで黙っている。 だから猫達は互いの事を姿形で覚えていなくて、何となく気配ででしか認識していない。 そこにもしかして違うモノが入り混じっていても、遠目で実は見ていたとしても分からない。 (昔、飼い主が居て鈴を付けたままの猫はまだ来ないのか…?)そんな事を考えていると 木々の隙間から月光が射した。余計に暗闇を感じて、その猫の事など忘れた。 乱暴者が暗闇に入り込んで、猫の集会場を襲いだした。自分より弱い生き物を叩いて救われる。 この可哀想な青年は、ゲームセンター帰りに若者達からカツアゲされたばかりだった。 猫達は四方八方へ逃げて行った。もう暫くは集会場に猫達が集まる事はないだろう。 此処から見える景色を乱暴に扱われた望遠鏡の男はカメラで青年を撮った。 「お前の事は許さない。彼女の住む街を汚すな…それが叶わないなら…。」 癒しを求めて男は私の勤めている本屋に足を運んだ。 そして興味の無い難しい本まで案内される時間に癒されていた。 ある日、私の家のポストに写真が一枚だけ入っていた。 そこには公園で猫達を叩いている弟の姿が写されていた。 最近の弟は元気が無くて、部屋の中で銃声の聴こえるゲームをしてばかりになった。 この誰が撮ったのか分からない写真といい…何かが起きているけど、分からない。 「仕事から帰ったらとにかく両親にも相談しよう。」と独り言を呟いて出勤した。 職場の近くの公園には疎らだけど猫がいて、日を跨いではしゃいでいる若者達が札束を数えていた。 そして本屋と向かい合って建っているマンションの、とある一室は黒いカーテンがいつも少し開いている。 望遠鏡の男は仕事が休みだったみたいで、今日はずっと私を窓から覗いていた。 その日は曇り空で時々、強い雨が降るかも知れないと予報されていた 弟は学校帰りに私が慌てて出て行ったから、忘れた折り畳み傘を職場まで持って来てくれた。 原因は分からないけど、荒んでいながらも気遣いの出来る優しい弟だなと私は思った。 店長もその様子を微笑ましく感じたのか、弟が帰った後に「良い弟さんだね。」と言ってくれた。 その様子を見て、望遠鏡の男はこの時に写真の青年と私が姉弟の関係であると知った。 「トリミングしなきゃ…トリミングしなきゃいけない!誰を?何を?」 男は部屋を飛び出して、それっきり帰る事は無かった。 「まさか、こんな場所で事件が起こるなんてねぇ…。」 「物騒な世の中になったもんだなぁ…。」 「うわ、スゲー!こんなのドラマでした見た事ないや!」 「記念に写真撮ってこうっと!」 「君達!見せもんじゃないんだぞ!学校名は何処かな?連絡してあげようか?」 「あーい、すみませんでしたー。じゃあ、行こうか…。」 数日後、公園には立ち入り禁止の黄色いテープが張られていた。 望遠鏡の男はサバイバルナイフを持って若者達を殺傷したのだ。 そして男の部屋からは、私を撮影した写真が押収された。 猫達を叩いている弟の写真を家に送り付けて来た人、マンションの黒いカーテンの部屋の主 そして、私に本を尋ねて来た男は全てが同一人物だった。 殺傷された若者達は、ゲームセンター帰りの弟をカツアゲした集団である事も後で知った。 もうこの街には住めないと、私達は遠くへ引っ越した。 きっともう戻って来ないだろう。 変わらないものが幾つかある。 平等に街を夜空は照らしており、公園の猫は集会場に集まっている。 今日は鈴を付けたままの猫も来た。
それでも街は廻っている ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1954.8
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 3
作成日時 2020-04-25
コメント日時 2020-05-07
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 1 | 0 |
可読性 | 1 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 3 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 1 | 1 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 3 | 3 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
お読み頂きありがとうございます。 群像劇というのをやりたいと思いました。 群像劇は好きでは無いのですが、憧れております。 器用な感じがするのです。 どうやら私には、それをする程の経験と実力が足りなかったようです。 ですが…私自身 内容は例えつたなくとも この散文好きみたいです。 ノリと勢いで書いて来てる自分が 進んで取り組んだ難産だからです。 だから過保護なのかもしれませんが 次にいかしてやりたいです。
0心中電話も拝読しております。 これは詩なのか?と問われたら詩じゃないだろうなと思います。(ビーレビが詩の投稿板である以上これはどうなんだ? と云う疑問は一旦横に置いておきます、そこら辺よくわかんないので) 心中電話もそうでしたが、言葉悪くしかし的確に言い表すならば、安っぽい三文芝居を観せられているような感覚と云えば良いでしょうか。辛口ですみません。 沙一さんも仰っているように、視点が同じ場面上でバラバラなので読み手に混乱を招きます。 群像劇と云うのならば同じ場面ではせめて統一した視点で書いて欲しかったです。視点が変わるのは良いのです。ただ視点移動がスムーズでないと、ある種のホラーです。 群像劇をやろうとしていることは伝わってきました。内容が拙いんではなく技術的な拙さなのですからそこが補えたら作品はガラっと化けると思います。
0詩というよりは短編小説といった感じでしょうか。私はまだまだ未熟な者ですが、単純に私の心をひきつけました。終始陰鬱が付きまとい、読後に虚無が残る感じ。梶井基次郎作品の読後の感覚に似ているように思えます。
0視点のわかりにくい錯綜については皆さんが書かれているし、詳細は省きます。僕がこれを書くとしたら登場人物の行動をタイムテーブルにしてみると思います。そうしたら自ずと視点は整理されるので。これは詩なのか?という疑問を出された方もおられますが詩情のある文体ではあると思いますし、ビーレビはあらゆるライティングの投稿の場なので全く問題ないと思います。 それよりも! >夜になる頃に、猫が暗い方へと歩き出した この始めの一行がめちゃくちゃ良かった。なんでかと言うと猫が先の見えない暗い方に動く事で、物語が動き始めた様子が見えました!リライトされたのが出来上がるならまだ読んでみたいですね。
0申し訳ありません……! 詩の投稿板ではなく、もっと拓かれた場所であることを知りました。 それについては軽く発言してしまい、申し訳なく思ってます。ごめんなさい。
0お読みいただきありがとうございます。 文芸で群像劇が出来る人って良いよなぁ、カッコいいよな よし!私もやってみようって気持ちで始めました。 しかし、散文も群像も経験値が足りなかったようです。 ですが、その中でもやりたい事が伝わったというお言葉を頂けただけでありがたく思います。 この作品に向き合っていただき感謝いたします。
0お読みいただきありがとうございます。 色んな事が起こるけど、街はそれでも動いていくよね。 小さいものはやっぱり、小さな出来事で崩れるけど 大きなものはそれ如きでは変わらないねがテーマでやりました。 書き終えて思ったのがヒミズ以降の古谷 実みたいだなと思いました。 ちょっと陰鬱さは影響とかしていたかも知れません。
0お読みいただきありがとうございます。 ああ!タイムテーブルですか! 私の中では一本で通っていたけど じゃあ、どうしたら伝わるの?って考えていた所です。 そうすれば、状況が分かりますね! リメイク…または別の群像の時に手段として覚えます! 冒頭だけでも掴めたなら、今回はまずオッケーですね。 最初も駄目だったら、濃い所が無いですもん。 その辺は短い詩を書いて来た力って奴ですかね。 持続力を付けたいと思います。
0私自身もっと酷い事を言われて来たし、言って来たので大概の事は大丈夫です。 お気になさらず、思った事を言い合いましょ!
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