穴から男が這い出してくる。
男の背中は濡れていた。
しかし、そもそもの始まりは
テレビの天気予報だったかもしれない。
あるいは西部劇だったかもしれない。
(そのどちらでもあったと言えよう、あるいは。)
*****
やがて男は河のようなところで
からだを洗いはじめるだろう。
河の上手からなにかが
流れてこなくてはならない。
流れてくるのはもちろん黒いトランクだ。
*****
天気予報(あるいは西部劇)の途中で
テレビを消す。
部屋のとなりで女が
ケストナーの小説を読んでいる。
ニンシンしているみたい、と
女は言うかもしれない。
へえそうかい、と
返事をするのだろう。
*****
トランクの中には箱が入っていた。
箱の中には箱があり
その箱の中にはさらに小さな
箱が入っている。
*****
窓を覗くと、となりの家の窓が見える。
となりの家の窓から見える男もやはり
こちらの窓を伺っている。
二人は同時にカーテンをしめる。
*****
八番目の箱に水晶玉は入っていた。
光にかざすと底が白く濁って見える。
濁りは二つに分かれ、睦みあっているのか
争いあっているのか容易にはわからない。
窓の男は誰だったのだろう?
たちまち部屋の電気が消えた。
真っ暗な天井に穴が空いている。
*****
男の掌から水晶玉はころがりだした。
河底ではなく、穴の中にすいこまれてゆく。
男は決して追いつけない。
*****
天井の穴から
口の中になにかが落ちてきた。
水晶玉が溶けると目が覚めている。
男はきっとあの部屋にいるだろう。
河岸から這い上がり
思い出したように穴の中へ降りてゆく。
*****
しばらくして土がすべてを埋める。
作品データ
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作成日時 2020-03-22
コメント日時 2020-03-22
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/24現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合ポイント | 3 | 3 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 3 | 3 |
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2024/11/24 07時11分02秒現在
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