残業帰りにコンビニに寄って私は
砂肝と豚焼き、ウィスキーと炭酸水、ショートホープを一箱。
気まぐれにちょっと体の事を考えて、サラダとドレッシングもついでに買いコンビニを出た。
ポイントは貯まるけど、貯金は貯まらない。
不満は積もるけど、風が吹いても飛んでは行かず、夜だとまだ肌寒い。
こんな生活で良いのだろうかと私は考える。
お菓子作りの専門学校に入学したけど、何処も採用してくれなかった。
本当は洋菓子屋さんで、甘いクリームの香りに包まれながら働きたかった。
だけど、コンビニ業界がスイーツに目を付けて力を入れ出してしまったせいで
お菓子屋さんへ足を運ばなくても、美味しいケーキが食べられる時代になってしまった。
次々と有名なチェーン店も、個人で昔からやっているお店もどんどん閉店していった。
もう慣れてしまったけど、増税の影響で財布の紐が固くなってしまっているのも原因だ。
ちゃんとしたお菓子屋さんは食材や製法に手間暇を掛けるから高いのだ。
コンビニは、私にとって夢を潰した存在であるが、そこまで憎んではいない。
だって憎んで、もう行きませんと誓っても、私の生活が不便になるだけだ。
仮にその生き方を貫いたとしても誰も褒めないし、コンビニには影響なんてない。
グダグダと考えていると、もうボロアパートまで着いてしまった。
クタクタの状態で鉄の階段を踏み鳴らし、一番奥の私の部屋のドアを開けた。
すると真っ暗な部屋の真ん中に、黒い人影が浮かんでいた。
私は買い物した晩御飯を投げ付けて、「誰だ!?」と正体も分からずに取っ組み合いをした。
「いだだだ!いだい!いだいです!離して下さい!」それは若い女の声だった。
ただですら驚いたのに、まさか暴漢ではなく女だったとは…。
私は女を足で踏みつけたまま立ち上がり、部屋の明かりを付けた。
そこには10代の羽を生やして、環形蛍光灯を頭に浮かべている女がいた。
「お前は誰だ!何処から私の部屋に入って来た!?」
嗚咽を吐きながら女は「わだしは…てんじでず…。」と言った。
確かに天使みたいな姿をしているけど、そんなのがいる訳が無い
きっとこいつは、頭がおかしくなった不審者だと私は思い警察に通報しようと思った。
「あ、待って下さい!何をするんですか!?」
「そりゃ、あんたを警察に突き出すんだよ!この変態!」
「変態じゃありません!私は…天使です!」
「あのね…この空間に…そんな格好をして居たら、もう変態と呼ぶしかないんだよ…。」
私は何でコイツは分からないんだと呆れてしまった。なんか、頭も痛くなって来た。
「だから変態じゃありません!私は…天使です!」溜めて強く言った所で私には響かない。
もうこの体勢で言い合うのに疲れた私は、何かあっても勝てそうだろうから話を聞くとした。
丸テーブルに向かい合うように座らせて、投げ付けた晩御飯を置いた。
なんか目の前で起こっている事なんだけど、自分の出来事じゃないような、そんな気分だった。
私はショートホープの封を切り、一本取り出して火を点けた。
不法侵入して来た奴ではあるが、煙を吹きかけるのは申し訳ないので上を向いて煙を吐いた。
「それで…天使さん。私の部屋に入って、何をしたかったんですか?盗みですか?」
「盗みなんかしません!私は、天使です!此処に来たのは…そう!あなたを幸せにする為です!」
「あぁーそうなの?じゃあ、出て行って貰えると私の幸せな日常が戻って来るかな?出口はこっちでーす。」
「出て行きません!私はあなたに尽くして、幸せにするんです!」
「いや別に、そんな事をされなくても…私、そんな困ってないし…。」
自分でも不思議だが、困ってないと断言を出来なかった。天使はそこを正確に突いて来た。
「困っていなければ良いのですか?それ以上の幸せをあなたは手に入れられるのに…良いんですか?」
さっきまで、散々言い負かして来たのに何も言い返せなかった。
「急な出来事で、疑う気持ちも、信じたくない気持ちも分かります。」
「いや…別に…良いよ…。」口にしてしまったが、本心でないと自分でも分かった。
「もしかして、幸せになる為に何かを変えるのが怖いのですか?」
図星だ…。そう私は、あの時からもう多くを望まない事にしたんだった。
このショートホープを選んで吸っている理由もそんなのが理由だった。
ショートホープは他の煙草と違って太くて短い。そして十本しか入っていない。
私はもう多くの事を望まないで生きるんだ。
希望なんて糞くらえ!全部、全部、灰にしてやる!
太く短く生きて死んでやるんだと思いながら吸っていたんだった。
それを思い出した時に私は涙がホロリと流れ、止まらなくなった。
「涙を流すという事は、本当は変わりたいのですね?」
「うん…変わりたい…でも、もう傷付きたくない…。」本心だった。
諦め癖が付いてからは泣くことも無かったから、ちゃんと言えたか分からないが、そう言った。
「大丈夫、心配しないで。その為に私はあなたの元にやって来たんです。」
天使は私の元に寄りギュッと抱きしめた。
そして…「イタダキマス!」と天使は私の頭を齧った。
ああ、そうね…そうだよね…私の人生なんて…そうだよね…。
そう言えば、ゲームかなんかで天使は人語を話せるけど、獣だって設定があったなぁ…。
可愛い見かけで人を油断させて捕食する。まぁ、そんなのもう…どうでも良いか…。
…………………………
………………………
……………………
………………
……………
…………
………
……
…
「っていう、出会いをしたんだっけ?」
「何ですか!私を不審者や化け物みたいに扱って!」
私はあれから、天使と同居する事にした。
まだ特別、大きな幸せが起きているわけではないけれど
今、希望に溢れている。
作品データ
コメント数 : 8
P V 数 : 1918.1
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 35
作成日時 2020-03-18
コメント日時 2020-04-02
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 5 | 5 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 10 | 2 |
エンタメ | 15 | 4 |
技巧 | 3 | 3 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 2 | 2 |
総合ポイント | 35 | 16 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 2 | 0 |
エンタメ | 3 | 1 |
技巧 | 0.6 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0.4 | 0 |
総合 | 7 | 6 |
閲覧指数:1918.1
2024/11/21 22時48分51秒現在
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「ショートホープ」というタイトルに惹かれて読み始めたら、面白くて、何だか少しだけ悲しくて、やっぱり面白くて、、今は、この感情のままいたいので、考えるのはまた読みに帰ってきた時にします!
0希望と実物の煙草を混ぜてみました。 短い希望(HOPE)をどう扱うか私は考えた事があります。 案外、ゆっくり根元までガッツリと吸うんです。 諦めてるくせに縋ってるんですね。 笑えて来ます。 その辺の私成分が入っていたら嬉しいです。
0傘子地蔵や鶴の恩返しみたいに理由があっての幸福は それを理由に受け入れられます。 挫折もそうです。 ハッキリとしたものは目に見えているから克服できるし だから私はダメなんだと言い訳も出来るんです。 だけど、今回みたいに決定的じゃないぼやーとした挫折は 擦り傷を水に浸けるかのように完治せず グジュグジュとその人腐らせます。 そして、自分は最初からこんな奴だったと堕落させます。 そんな人が救われて欲しいってのと 理由のない幸福、不条理や理不尽ともいえる形でやって来た時に 人はどうするのか?私はどうしてしまうのかを書いてみました。 読んでいただきありがとうございます。
0なんか詩ってよりはラノベみたいな感じだなーと思いましたけど どんな形であれ、面白かったら嬉しいです! 書き終わって思ったのは、中原岬ちゃんを求めていたのかも知れません
0>溜めて強く言ったところで私には響かない。 ここ好き。 僕はラノベはほとんど、いやまったく読まないのですが、なにかが違っていたらラノベにどはまりしていた世界線もあったかもしれない、と思いました。
0私もラノベは呼んだ事ないです。 西尾維新がラノベ扱いなら、読んだことになります。 なんか、散文にしても小説にしても 良くも悪くも半端なので、これがラノベって奴なのかなと思いました。
0こんばんは。昔、 「短い希望と長い平和」みたいなことを書いたことがあって、無論ショートホープ、ロングピースのことだったのですが、その記憶があったのでどこかしら「希望」につながってくるのかな、という予想はありました。しかし、話の展開が高額セミナーや新興宗教の勧誘などの常套話法に似ていて、主人公の崩れ方もそれに近く、型にはまっているように思っていたのですが、……まさか、かじりつくとは笑 予想外の展開で笑えました。そこそこ満足しているとはいえどこか中途半端でもやもやを抱えている前半に比べるとラストの明るさは晴れ晴れしていてよいですね。
0良いですねぇ。煙草は詩にすることありますが、何気にその2つを組み合わせて書いたことないので、ネタ保存しますね。 今思うと寄生獣のパロディみたいですね。頭かじりついてますから。 とにかく、飛びきり不幸でもなく特別良い思いもしてない。ある意味、平和で順調なんだけど、何かモヤモヤしていて+-で言うとちょっと-な状態が晴れる。+に動き出すを書けていたら良かったです。
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