歯医者にいったの
十年ぶりか十五年ぶりか
ドリルでしょ 薬品の味でしょ
手なんかぎゅうって握りしめてね
うすく背中に汗なんかかいちゃって
次の予約なんかして
やっと解放されてね
通りを歩いたらばね
むしょうに本屋に行きたくなってね
なるでしょう? ならない?
思いだしたのさ
学生のころをね
緊張と緩和ってやつ?
ホッとして本屋の棚のまえで
なんでも選べる生きた心地よさ
なんか削りおとされた分だけ
ひとの文字で埋め合わせたい感じで
いきおいあまってさ
萩原朔太郎詩集なんか買っちゃって
なんかをショーチョーしてるらしいけど
何が言いたいのかさっぱりわかんなくてね
別の歯医者帰りの日なんかあれよ
九州大学米軍捕虜生体解剖実験の実録本
歯の麻酔が手に取らせたのかね
また小難しくてさ
表紙の写真ばっかりながめて
途中で投げちゃった
それでね 話はかわるけども
神社行ってさ
いま総理官邸の裏から
坂を登ってきたんだけど
坂の下の東急ホテルの窓からね
結婚披露宴やっててさ
ちょうど金屏風の前で並んで
新婦さんがあいさつしてたの
声は聞こえないし
客の様子もよく見えなかったけどね
なんか悲しそうに見えたのよ
わかる?
だってよりによってさ
感染症拡大だ たいへんだって
人が集まる宴席禁止だなんだって
世間が不安な空気のこの日によ
自分の佳き日が重なって
祝い客のまえでどんな顔して
どんな言葉で返せばいいのよ?
客も客でみんなやさしいからさ
二人の佳き日を
一生懸命たぶん祝おうとしてさ
いじましいくてね なんだか
萩原朔太郎 また読んでみようかな
なんてちょっと思ったりしちゃってさ
だけど本屋さんがぜんぜんないね
このあたり
作品データ
コメント数 : 3
P V 数 : 1777.5
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 58
作成日時 2020-02-29
コメント日時 2020-03-08
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 18 | 18 |
前衛性 | 1 | 1 |
可読性 | 10 | 10 |
エンタメ | 7 | 7 |
技巧 | 8 | 8 |
音韻 | 6 | 6 |
構成 | 8 | 8 |
総合ポイント | 58 | 58 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 4.5 | 3.5 |
前衛性 | 0.3 | 0 |
可読性 | 2.5 | 2 |
エンタメ | 1.8 | 2 |
技巧 | 2 | 1.5 |
音韻 | 1.5 | 1.5 |
構成 | 2 | 1.5 |
総合 | 14.5 | 14.5 |
閲覧指数:1777.5
2024/11/21 23時08分57秒現在
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お見事、のひとこと。全く言葉の運びに緩みがなく最後まで一気に読ませてくれますね。読後感爽快。
0クヮン・アイ・ユウさん 石村利勝さん ありがたいお言葉 たいへん痛み入ります。 この詩文は 言ってしまえば 「みんながあこがれた! あの知的スノッブ! 軽妙洒脱! 伊丹十三 絶品エッセイでの 無名人語録的 聞き書き文のような味」 「平成生まれもここに帰ってきてしまう! 男はつらいよ 寅さんに マドンナがはじめて愛慕の情をかいま見せた その後に 上機嫌で知り合いの警官に もっともらしく善良なる小市民を気取る あの可笑しみ」 あれであります。 文面の逸話は全て実話でありますが 警備厳重な国会周辺を散歩したおり 出会い?を求めて職質されんと ジロジロ顔を見ながら会釈などして近づきたるも かえってそっぽ向かれて相手にしてもらえず…… そこだけはフィクションとなりました。 よっぽどカラみたくない厄介ものに見えたんでしょうか。
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