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新しい不条理〜黒羽黎斗氏「無題」
カフカの変身にある不条理がある男の朝に訪れることは本作には無くて、語り手の「俺」が己を客観視することから感得する不条理が本作にはある。それはファーブル昆虫記の観察レポートに近い。近いけれども、そこには「なぜ?」は無い。代わりとしてあるのは諦念だろう。最初から最後まで、「俺」は全てを自己認識によって「理解」している。 更に言えば、己が在る空間も偽りであれ何であれ「真実」であると諦めている。それは眠りたい欲望の自覚と眠らないでいる空間にある「知覚出来ない不条理」を「真実」として諦めているのだ。この諦めはとても新しくて時代性が滲み出ていて、作者の黒羽黎斗氏らしさに思えてならない。 私たちが迎えるシンギュラリティの日々はきっと、このモヤモヤ感満載のままに真実を諦めなくてはならない不条理が充満しているのだ。きっと。 本作にある結末のように鏡写しによって世界(自己認識以上の世界は無い)のその新しい不条理を知ることになるだろう。
新しい不条理〜黒羽黎斗氏「無題」 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1762.2
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作成日時 2020-02-27
コメント日時 2020-02-27