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バレンタインさよなら。
あたしの作ったジンジャークッキー死んじゃった 首を折られて死んじゃった 享年2時間の命です さようなら。 久しぶりの寒波にふとももが冷える まるで予感のように体はふるえる 街ではワイヤーの切れかかった電球が まるでモールス信号のように点滅している ああ、きっと恐ろしいんだ、冬が終わるのが 12月から始まったイルミネーションもそろそろ片付けのときがきた 「お菓子を作るときは正確さが大事 デザートはサイエンス、再現性こそが重要 レシピ通りに測って、切り取って、焼いて 伸ばして、捏ねて、抗わず、したがって、 そうしてここで愛をこめて」 (愛が早すぎたようだ ジンジャークッキー 愛は小麦粉とは溶け合わないのだと レシピには書いていたのだけれど どうしてもその瞬間に愛していたくて そうして首が折れてしまったよ ジンジャークッキー ほんのちょっぴり、甘すぎて) 心配しているんだよ、と 君を思うがままにしたいんだよ、という境目に 上手いことチョコレートを流し込んでいく予定だったんだけれど やっぱり愛は早すぎたから チョコレートも固まりきれずに。 高校生たちの青い瞳が不安げにゆれる 首を絞めるように巻いたマフラーが解けかかっているのに なおそうともせず彼ら彼女らは自転車にのる 急がないで、まだサドルを回さずにいて、 一度回した輪からは降りるのはとても難しいことだからと その背中に語り掛けてみても、 彼ら彼女らは笑いながら走り去っていく 来る春は 彼ら彼女らに期待通りのものを運んでくれるとは限らないのに まるでなにかの核心があるかのように 彼らは垂れ下がったマフラーもそのままに走り去っていく 生姜の効能は体を温めてくれること 私の死んじゃったジンジャークッキー、口に入れる 春が来てもこのふるえが止まらないことを 悟られないように。
バレンタインさよなら。 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1568.9
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 24
作成日時 2020-02-08
コメント日時 2020-02-16
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 7 | 7 |
前衛性 | 3 | 3 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 3 | 3 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 6 | 6 |
構成 | 2 | 2 |
総合ポイント | 24 | 24 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 2.3 | 1 |
前衛性 | 1 | 1 |
可読性 | 0.3 | 0 |
エンタメ | 1 | 0 |
技巧 | 0.7 | 0 |
音韻 | 2 | 1 |
構成 | 0.7 | 0 |
総合 | 8 | 3 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
リズムの小気味良さと文体の可愛さを保ちつつ残酷さがストレートに飛び込んでくる、そのギャップに震えつつ拝読させていただきました。
0とても興味深く拝見しましたので、長文ですが失礼します。 ジンジャークッキーが死んじゃったという表現、しかも、砕けた、とか、焦げた、とかではなく「首を折られた」という表現がおもしろいです。 第二連は、この詩を最後まで読むと、失恋を予測していた主人公の気持ちを喩えていたのかなと思いました。冬の終わりを恐ろしいと感じているのは主人公だったのではないかと。 私もクッキーを作ったことがありますが、材料を入れるタイミングを間違えると形が崩れたり失敗の原因になりますよね。 第三連で不思議なのが、普通クッキーづくりは、測って、捏ねて、伸ばして、切り取って、焼いてという順番だと思いますが、この詩では作る順番がバラバラで、クッキーづくりには直接関係のなさそうな「抗わず」とか「したがって」というような言葉が出てきます。 ここが主人公のうまくいっていない恋を喩えているのかなと。バレンタインの日に愛の告白をしたのではなく、これまでの恋が終わってしまう主人公のことを書いた詩なのかなと思いました。 ただ、第四連の「愛が早すぎたようだ」「愛は小麦粉に溶け合わない」この表現に少し矛盾を感じました。 「溶け合わない」のではなく「溶け合いにくい」と書いていると何となく通じる気がします。「溶け合わない」のであれば、愛をこめるタイミングが早い、とか遅い、とかの問題ではないのではないかと。 勝手な個人的な見解ですが、例えば、バターが「愛」の暗喩だったとしましょう。バターと小麦粉は溶け合いにくいから、本来のクッキーづくりだとバターは室温に戻して、しっかり小麦粉と混ぜることが大事です。 この工程を、「愛をこめる」ことのメタファーとして表現できているといいなぁと思いました。 しかし、細かいところはさておき、この詩では「愛」をこめるタイミングを間違ったことがジンジャークッキーの「首折れ」の原因になったという発想は面白いと思います。おそらく「首折れ」というのは、失恋の暗喩なのかなと感じます 「心配しているんだよ」というのは相手を思いやる気持ち。 「君を思うがままにしたいんだよ」というのが相手を支配したい自分の欲求。この相反する気持ちの、ちょうどその境目のほどよいところに流し込む予定だった「チョコレート」 このチョコレートも愛の比喩なのだとしたら、「愛」を流す境目を間違ったから、チョコレートが固まりきれなかったという表現にも「失恋」の原因のようなものが喩えられていて面白いです。 第六連が巧いと思いました。どんなにきつく絞めたマフラーも、動くことで解けてしまう。解けたマフラーが車輪に絡まり「首折れ」の予兆を表しているのかなと思いました。 若さゆえの根拠のない自信のようなものがこの連から読み取れます。思わぬ事故に遭うかもしれないことなんて、気にもせずに笑いながら。 どんなに恋人とつよく絆が結ばれていても、いつのまに解けてしまうということを想像させる表現でした。 「来る春は彼ら彼女らに期待通りのものを運んでくれるとは限らない」ことを知っている主人公が、春になってもふるえが止まらないことを予測しておりなんとか体を温めるために、死んでしまったジンジャークッキーを口に入れている。おそらく失恋してしまった傷は春になっても言えることはないという深い悲しみを感じます。
0■あかさま 感想ありがとうございます! リズムの良さはとても大切にしているのでうれしい言葉です(少しもったりとし過ぎたかな?と心配だったので) ■つつみさま 感想ありがとうございます! そうですね、二連目以降はもう少し工夫の余地があったなあ、と自分でも思っています。 一応、レシピ通りではない手順については、本人はレシピ通りだと思っているのにレシピ通り作れていない錯綜感、を出してます。ただ指摘を受けて気づいたのですが、「愛」に当たるモチーフがこの中にはないんですよね。 しいて言えばジンジャークッキーそのものなんですけど、ジンジャークッキーは愛そのものというよりは、愛をこめて作ったもの(結局壊れたもの)なので。 バターでもチョコレートでも、何か意識的にモチーフに焦点をあてたらもっと面白くなったなあ。と気づきました。 ありがとうございます! 後半の連についても丁寧に読んでいただきありがたい。高校生の下りは力作なので嬉しいです。
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