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マルボロ(リミテッド・エディション)
夜 きれた煙草を買いにコンビニにいったら 店員である友人のBが マルボロ新しいの入ったよ とレジ打ちしながら眼の前に立つ ぶす・でぶの大学生らしき女を無視して言った ああそう と僕はジーンズのポケットにライターを入れ忘れた気がして 指で弄りながらレジの前に立った ぶす・でぶの女は俯いたままビニール袋を下げて 横へスライドしていった そのとき揺らいだ女の髪が少しきれいだった おいどれだよ Bは黙って奥へひっこんですぐに戻ってきた これこれ よくね? 赤いメキシカンなパッケージにブーツの形をした銀色のライター そういや レジェンド・オブ・メキシコでジョニー・デップが アー・ユー・メキシカン? オア メキシカント? という台詞を言っていた 僕は笑ったが隣にいた彼女は笑わなかった かっこいいね 僕はレジに手をついて言った Bは少し笑って 俺すぐ買ったよ マルボロなんて吸わないのにさ そうだよね Bは何だっけ、セブン・スター?、だっけ? ほん お前赤マルだよな うん それ買おうかな 3パック入ってるんだよね そうだよ ライター入れても900円だし 買えよ じゃ もらおっかな 客は自動ドアから誰も入ってこなかった ガラス戸越しに見えるマンションの明かりは 僕の家のようでもあり そうではなかったのかもしれない はい 900円 ピ とバーコードをよんで Bは煙草の入ったビニール袋を突き出した 僕はそれを受け取って 1000円札を出した 釣りはいらねえよな と笑って Bが言う まぁ と僕は曖昧に笑ってコンビニを出た 冷たい風がまだ春を 冬が追いかけている と思った
マルボロ(リミテッド・エディション) ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1816.1
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 17
作成日時 2020-01-28
コメント日時 2020-02-01
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 3 | 3 |
エンタメ | 10 | 10 |
技巧 | 3 | 3 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 17 | 17 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 0.5 | 0.5 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1.5 | 1.5 |
エンタメ | 5 | 5 |
技巧 | 1.5 | 1.5 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 8.5 | 8.5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
上手くコメントをつけることができませんが、好みの詩でした。これはしばしばあるやり方なのかもしれませんが、セリフと地の文が区別なく書かれることによって、直接話してるかのような語り手との近さを感じました。しかし、「ぶす・でふ」という書き方をすることは、その正反対のことです。何かの本かサイトで読んだのですが、詩の表現の基本のひとつに異化というのがあるらしいです(このコメントに目を通される方なら誰しもご存知かもしれません)。ここでの「ぶす・でぶ」はそこで語られた異化とは意味が少し違いますが、同様のことを読み手が直接経験するという点で、やはり異化の類似物だと思います。そういうわけなので、全体的に、技巧的な詩だなあと思いました。
0コレは好き。エンタメ10点
0読みやすく、説明する必要のない作品ではあるのですが、コンビニへ煙草を買いにいって店員である友人との会話を描いた作品です。おそらく、この友人との会話というのは、語り手にとっての日常であって、それだけでは、このような詩(作品)へと昇華することはできなかったのですが、そこに「ぶす・でぶの大学生らしき女」がいたということが、この場面の一回性を演出しています。詩行を読み解くに、この「女」は語り手の一人前のお客さんであって、先にレジに並んでいた人であると思われます。それゆえ、本来は後ろ姿しか見えていないはずなのですが、「ぶす・でぶ」と勝手に規定されています。しかし、語り手は「揺らいだ女の髪が少しきれいだった」という魅力を感じたこと、これこそがこの作品を作品たらしめた契機であったのだろうと思います。 風が吹いてきたわけではなく、レジを空けるためにずれたことによって髪は揺れました。それを裏付けるかのように何でもない詩行の間に何気なく「客は自動ドアから誰も入ってこなかった」という証拠があります。何でもない友人との会話を終えて、語り手はコンビニをあとにします。最後の「冷たい風がまだ春を 冬が追いかけている/と思った」という二行もまた、本当に何でもなく感じるのですが、深読みすると、何となく、「僕の視線が女の揺れた髪を追いかけている」ようにも思えて、何でもない場面の何でもない詩行に奥行きを感じました。
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