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虚像への愛を語る。
タイピングはいつも通り遅くて。 僕らの会話の始まり方は、 いっつも定型文じみていた。 ・ その日僕はヤク厨の友人とチャットしていた。 日本語を喋ってはいるけど、会話が成立しているか怪しい。 あいつの会話ログの一言目は大体、 「気持ちよくなれるから一緒にやろうよ」だ。 丁重にお断りさせていただきます。 これは僕の二言目。 まあそんなことは日常だったのだけれども、 今日はなんだかあまりにも鬱陶しかったから、 そのまま流れに乗って絶交を宣言してしまった。 あいつはなんか言っていたが、 特に読まずにそのままチャット画面を閉じて、 スカイプの連絡帳からあいつの名前を消した。 後になって、惜しい友達を失くしたことに後悔した。 少しだけ。 本当に、少しだけ。 しばらく、チャットには潜らなかった。 する意味はほとんど失っていたし、 しようものならあいつの垢を思い出すから。 我ながら子供みたいな考えだと評価した。 ちっぽけな理由を思い出して、会社で思い出し笑いをした。 部長には精神科を勧められた。 あいつに勧めてやってほしい。 僕自身チャット中毒者だと思っていたのだけど、 というのも、チャットルームには基本ログインしていたのだ。 しかし喉元過ぎれば、というやつだろうか、 一週間もすれば特に何も思わなくなっていた。 むしろ、仕事の効率が良くなった。 あんなに輝かしく、楽しい毎日だったのに、 昔の自分が阿呆に見えてしまった。 部長には「精神科の効果が出たな」と言われた。 すみません。部長が紙に書いてくれたおススメの住所、 はい、だいぶ前だったと思います。チリ紙交換に出しました。 特に抑揚のない日々が続く。 クッション。 二か月ほど経って、 知らない垢からスカイプメッセージが来た。 思わず顔をしかめて、垢名を確認したら、 思い出した。絶交した筈のあいつだった。 「三日後の日曜日、都内のバーで待ってる」 そのあとURLを貼って直ぐにログアウトしたらしい。 返信を送っても反応がなかった。 リンクへ飛ぶと、そこは知らない店の紹介ページ。 オシャンティーな外装を紹介している。 とりあえず僕は、Googleマップを開いた。 時間いつだよ。 三日後。つまり今日。 結局時間が分からなかったから、とりあえず十八時に向かった。 店に入るとそこは安心できる薄暗さで、 パソコンやってる時の部屋の明るさと似ていた。 席に着いたら、カウンターの奥から一人やってきた。 「どうも、初めましてですね」 あいつ、らしい。そして、ここの店員らしい。 薬をキメている本人とは思えないほどの淑女だった。 「……そのことなんですけど」 言及しようとしたら遮られて 「ごめんなさい、薬なんてそもそもやってないんです」 僕は目と耳と口を疑った。 ・ 「丁重にお断りさせていただきます」 これは僕の二言目。 またチャットを一緒にしよう。 そんな言葉への返答はこれで十分だった。 あれから説明とか理由とか聞かされたけど、 割かし僕にはどうでもよかった。 というか、元々中身のある会話なんてしてなかったじゃないか。 あいつのことなんて知ったこちゃない。 僕はその店員に飲み物を頼む。 XYZ。 カクテルを飲んで、バーを後にした。
虚像への愛を語る。 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1526.7
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 2
作成日時 2019-12-02
コメント日時 2019-12-10
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 2 | 2 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 2 | 2 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
作者さんだったら申し訳無いけど、作中の主人公がとっても可愛くて、俺のタイプ。バーのあいつもヤク中でないにしろ、変わってるよね。面白い二人。
0/舜舜様 コメントありがとうございます。 登場人物達は私ではないです。ただ、こんな経験は是非してみたいですね。全部私の妄想です。
0面白くて好きです。頓珍漢な部長への淡々とした返しとか。コントじみているのが良いと思いました。
0個人的にはオチは、ブラッディマリーを選ぶとかがよかったかなあ。XYZは意味を割りと知られているから意味通りの結末になって、全体的に安定した着地になっちゃう気がする。
0IHクッキングヒーター(2.5kW)様 コメントありがとうございます。 まあ部長目線だとおかしくなってるように見えたんでしょう。別に何の異常はないのですけれど。もしかしたら部長が薬厨の可能性が。薬はそうですね、ロコイド軟膏とかじゃないですかね。
0藤 一紀様 コメントありがとうございます。 私自身カクテルにはあまり詳しくないのでブラッティマリーの名も初めて知りました。私が知ってる物なんてニコラシカとXYZしかありません。情弱。 終わり方に関しては正直何も考えてませんでした。この終わり方だとどうとでも捉えられるんですよね。この後のキャラクターの行動なんて私には全く分からないのです。 ただ、安定した着地、文章としては良いですが、詩となると微妙に感じますね。そういう観点はありませんでした。ありがとうございます。参考にさせていただきます。
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