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落下
ある朝、わたしは透明になった。 世界は膝を抱えてあおいだ青空であり そこへとあらゆるものは落下していた。 それは重力という現象ではなく 存在という重心へと還っていく風景だった。 この風と岩、水だけの星をおいてけぼりにして 宇宙はどこまでもひろがりつづけるという。 道ばたの雑草も、空中庭園の薔薇も 彼方へ、彼方へとのびているのではなく 最期の息をはいて落下しているのだ。 雨と雨との距離さえも膨張している。 川の対岸にまう蝶々、麦畑の金色の波、 夜が詰まってしまった側溝のすえたにおい、 踏みにじられたショートホープの吸い殻、 親しんでいたものすべてがとおくにある。 とどかない呼び声につかれた肉体と やおら閉ざした瞳のうちの景色は 四十六億年もの間ずっと、はちきれないように 身を固く、冷たくちぢめて 震えて、耐えつづけている。 それでも地球は変わらずに在る。 瞳孔のかぎりをこえて膨らんだ感覚で 赫赫と燃える大地をみた。 冷たく固まる大地をみた。 そこに立つまぼろしをみた。 わたしは落下する。 あらゆるものがそうするよう わたしという一点へ向けて。 そしてまた膝を抱えて頭蓋をあおいで、 降ってくるものをまっている。 ある朝、わたしは透明になる。 まぼろしだけが残っている朝だ。 それは落下しないで、己という大きさのまま 空っぽになってしまった空をあおいで あくびなんかをしている。
落下 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1575.2
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 48
作成日時 2019-09-29
コメント日時 2019-09-30
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 16 | 16 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 4 | 4 |
エンタメ | 5 | 5 |
技巧 | 13 | 13 |
音韻 | 3 | 3 |
構成 | 7 | 7 |
総合ポイント | 48 | 48 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 2.3 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0.6 | 0 |
エンタメ | 0.7 | 0 |
技巧 | 1.9 | 1 |
音韻 | 0.4 | 0 |
構成 | 1 | 0 |
総合 | 6.9 | 8 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
躍動感溢れる力強い詩句ですが、しなやかでもある。全は個、個は全というか世界に融けこむように始まり、わたしという一点へと収束する。最後の一行、あくびなんかしている、が好きです。硬質な印象で好みが別れそうだが、読んで満足できる一品だと思います。旨し。
0私はあまり躍動感は感じませんでした。硬質とは思いました。「仰いだ」「落下」「広がりつづける」など動きを表す言葉も多いですが、文体そのものが硬質で、静的な感じがしました。
0作者の世界観がよく出ているように思いました。宇宙観と言うのか。坂口安吾の落ちよ落ちよという堕落論などを思い出しました。私は落下するとはっきり言明されていますが、地球の歴史、宇宙の歴史が一私事ではないと感じられて、私が地球や宇宙を担って居る様な緊張感も感じられました。
0(1回送信を失敗したようなので、もう一度。二重になっていたらすみません。) 詩を書いている時の、自らの中に意識を集中させている時の、落ちてゆくような、それでいて現実とは違う場所に居る浮遊感を感じました。無重力かとも思ったけれど、やっぱり落下、ですね。ジェットコースターでしか経験したことがないけれど、空中ブランコとも違うから、やっぱり落下なのだと思いました。 世界は > 最後の息をはいて落下しているのだ。 対して自分は > あくびなんかをしている。 深く息を吸っている、という現象が面白いなぁと思いました。 第一連の > ある朝、わたしは透明になった。 過去形から始まる風景と 最終連の > ある朝、わたしは透明になる。 これから変化していくであろう(今はまだ)とも感じられる風景の違いに、爽やかな気持ちになりました。 あくび、という現象が持っているのんびりとしたイメージが、硬質な文章の最後にあることで、読んでいるこちらも肩の力がふっと抜けるような効果を生んでいるのではないでしょうか。なので、詩の全てを読み解けなくとも読後感が「難しい」にはなりませんでした。 素敵な作品をありがとうございます。ジェットコースターに何度も乗りたくなるような、この作品を読んで感じる感覚を体験したいがために、繰り返し読みたいと思いました。
0帆場蔵人 さん これは変な考えなのかもしれませんが、何かが存在するという形を定めているのは結局わたしたちの脳であって、これは茂木健一郎さんの言葉なのですが「わたしたちは頭蓋の中にしかいないんだ」ということなのです。全と個、個と全、世界に溶け込んでいるのは当たり前なんだよね、っていうのが書きたかったので、そこを汲み取っていただけてめちゃんこ嬉しいです。 コメントありがとうございました。
0いすき さん そうてすね、わたしは落下しているんだけど、結局それは自身の内側に向けて、重心へと落下しているだけですから……でも落ちているという臨場感を出す工夫をするべきでした。 コメントありがとうございます。
0エイクピア さん そうですね、「わたし」は文明のうちにいることで宇宙や地球の事象を認識している、それゆえにわたしが落ちていく重心にはあらゆることがある、という感じだったのでそこらへんを汲んでいただけたようで非常に嬉しいです。 コメントありがとうございました。
0杜 琴乃 さん 青空、というのはわたしにとっては妄想を掻き立てるもので、それゆえわたしは青空のような世界が心の中にあるのです。最後にあくびを入れたのはまさにこんな壮大なことを考えているとあくびが出てしまうというくだらない理由でありまして、なんかそこらへんのことがバレてしまっているようで恥ずかしい限りです。浮遊感と落下の感覚を味わっていただけたとあってとてま嬉しいです。 素敵なコメントありがとうございました。
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