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ラブソング
傷であせた茶色の机。積みあげたBlu-ray disc。Windows8。つけることのなくなったTV。雨風が強くなっていく窓の外。入れ替えのなくなった本棚には高校の参考書なんてものが。電気を消してyoutubeの履歴を見ればラブソングが一つ。部屋に閉じこもる夜11時の余白。 「『愛』という言葉が、本来指し示すところの意味として機能しなくなったのは、日本の音楽シーンにおいてはポップソングが大量消費された90年代であり、それを反駁する形での00年代のネット文化が存在する。対して……」 頭の中で風変わりな学者が講釈している。僕は話をさえぎると、ベッドにうつ伏せる。飲みのこした紅茶は牡丹色で、閉じられた科学読本は二度と開かれはしない。頭にループするのは「会いに行く」と歌う青年シンガーの声。学者のお喋りはまだ続いている。 もし仮に消耗品とレッテルの貼られた恋愛詩がどこかにあったとして。そしてその詩が消費されて、文化の劣化を表す現象の一つになったとしても。僕の胸に事実として残るのは。 バッドを1万人に押され、おとしめるコメントも書き込まれ、それでも7000万回再生された愛の歌。 一人の男が届けたラブソング。 甘ったるいとなじられてもそこにあるのは埋められた夜11時の沈黙と7000万回の独りきり。 僕は明日もここから出て行く。青年の青くかすれた声を聴きながら。 一つの場所にもう留まりはしない。
ラブソング ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 2190.4
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 30
作成日時 2019-09-28
コメント日時 2019-10-03
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 14 | 14 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 2 | 2 |
エンタメ | 7 | 7 |
技巧 | 3 | 3 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 4 | 4 |
総合ポイント | 30 | 30 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 2.8 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0.4 | 0 |
エンタメ | 1.4 | 0 |
技巧 | 0.6 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0.8 | 0 |
総合 | 6 | 5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
僕はブルース的なものが好きらしい。それはもう10代から変わらない。負けて負けてそれでも生きるしかない、そんな時に笑って諦めのなか歩いている。この詩にもそんな空気がある。 人が生きていく上で信条や信念を掲げるほどに時に誰かとぶつかり、否定されるわけですがこの7000万回再生された愛の歌はまさにその比喩なのでしょう。同時にラブソングに関する学者の言葉、消費されるものになったラブソング、これも同じく、だとしても生きていくんだ、という心情にリンクします。いつか諦めのなかそれでも歩いている、という詩句を書いたことを思い出しました。 表現としては捻らずにど真ん中を投げ切ったような気持ち良さがありました。
0こんにちは。「夜11時の沈黙」と「独りきり」のために大量のノイズの響きがあるのかもしれませんね。 それはともかく、くさいなという印象がとてもあります。でも、問いかけの連発もなく、文字通り「甘ったるい」上等とかなぐり捨てた感もあり、潔さも覚えます。あ、ほばさんとここ、被ってる。
0濃密な時間のもたらす情緒と、思いの密度が、表現されており、大変面白いと思いました。 永遠をもたらすもの、という特質を認めたく思いました。
0確かに藤さんがおっしゃるようにくさい。でも、例えばブランキー・ジェット・シティーの「悪いひとたち」みたいに、ブルージーなギターに乗せて浅井さんがこの詩を語っているところを脳内再生すると全然悪くない。あとはちょっと違う路線だとたとえば NUMBER GIRLS の向井さんのシャウトみたいな感じとか。「頭の中で風変わりな学者が講釈している」のようなゴチャゴチャした表現もむしろ活きてくる。 私の持論は作者と作品は切り離せないということ。ステレオさんはキャスなどでのキャラが定着してしまっているので私は読むときにそのキャラのイメージで読んでしまう。そうすると、こういう作品の書き方はものすごくダサく思える。だけども、もしステレオさんのネット人格がもっとオルタナティブな感じだったら、それを前提に読むのでむしろ格好良く思えたかもしれない。ステレオさんのネット人格はこの手の表現を読み手に納得させるにはあまりにも「いい人」なのだ。
0どうしようもなく擦切った、古く淀んだような日常の中、ある種の力強さを感じました。 果てがないほど否定され続け、それでも再生され続けているラブソング。 シェルターの様な、時間が止まった部屋に。 そこからエネルギーが放出され、この話者がそれを受け止めたのでしょうか。 見えてくる光景が良いと思いました。
0テーマがすごく良いと思いました。。!
0沙一さん、コメントありがとうございます。返信遅れました。「白い固定電話」懐かしいです。あの詩は歌詞的アプローチや音楽のフィールドにいた自分がビーレビ内でなかなか居場所を見い出せなくて、改めて現代詩って今こういう方向性で書いてるの?と試しに作ったものです。今振り返ると本当に試行錯誤してますね。それより僕の人柄と道具立てによる無機質な印象が作品内において共存していて、なおかつそれが僕の作品らしさという評価はとても嬉しいです。人失ってもダメ。技巧失ってもダメですからね。物を書くとは。ありがとうございました。
0帆場さん、コメントありがとうございます。ブルース。生きていることに重きを置き、時に泥くさくもしぶとくも生きていくブルース。僕は少年期青年時代とブルースに縁がなかった男なのですが、ここに来てブルース的な価値観というものが、内面から湧き出てきたようです。生きていく。生きてこそ。しぶとく、汗まみれになりながらも。そんな時が来てしまったという感じもします。 作品評においてラブソングを心情や信念に置き換えた解説。読んでいる僕が熱くなってきました。実際そうですよね。この年齢まで生きると心情や信念はへし折られるくらい激しい雨風にさらされる。それでも表面的には姿を変え形を変え、信念は生き残っていく。そういうギリギリの生命観で描いた作品を評価していただきとても嬉しいです。ありがとうございました。それにホントにストレート、打たれてもいいから真っすぐ一本という思い切りがありましたね。今作は。
0藤さん、コメントありがとうございます。くさいですね。たしかに。ラブソングなんてものに、ラブソングがそれでも生き残るなんてフレーズを持ってくるとくさくなるのは当たり前かなとも思います。でもこの時期僕にはこれしか書けなかったんですよ。推敲も延々と時間をかけた。笑い話ですが製作期間半月みたいな作品ですからね。でも潔さを褒めてもらったのはとても嬉しいです。ありがとうございました。「夜11時の沈黙」と「独りきり」。いいフレーズだったと思います。
0黒髪さん、コメントありがとうございます。もう黒髪さんのコメントそのものが「詩」しているので、僕が言う事がなくなってしまうと思ってしまいました。「永遠をもたらすもの、という特質」という評を聞いて黒髪さんが僕のキャスにいらした時、「ステレオさんは話し方、話の内容、詩がすべて永遠から来ている印象がする」との趣旨のことを仰ってくださったのを思い出します。永遠をもたらすもの、とは余りに巨大で僕は並べるべくもありませんが、あの言葉はとても嬉しかったです。ありがとうございました。
0survofさん、コメントありがとうございます。そうなんですよ。くさいんです。腐臭一歩手前のいい匂いがこの作品からはするんです。こんな茶目っ気を出すのはともかくとして、鋭いなと思いました。僕の人格、特にネット人格は本当に「いい人」なんですよ。笑っちゃうくらい。いいお人柄なんです。作者評と作品評が一致し、人を納得させる作品にするには、僕は「悪い人」になるよりいい人のまま、それに肩を並べる作品を書くでしょう。貴重なコメ、ありがとうございました。
0羽田さん、コメントありがとうございます。光景が見える詩って技巧もあると思うんですが、どん底にいる時半径5メートル以内にあるものを素材にして書き始めるという手段もあると思うんです。この詩はまさにそんな作品ですね。冒頭の羅列されたモノはまさに僕の座っていた半径5メートル以内にあったものばかりです。「シェルターの様な、時間が止まった部屋に。そこからエネルギーが放出され」という評はこちらも痺れます。返詩カルチャーもいいですが、書き手の胸を鷲掴みにする評というのもいいですね。まさにシェルターの様な、はそれに当てはまると思います。ありがとうございました。
0いすきさん、コメントありがとうございます。この詩は結構リアルでもへとへとに疲れていた時に書いたものなので、淀みながらも済んでいるという雰囲気を出せたと思います。テーマが凄く良い、と聞いて投稿して良かったなと思う限りです。ありがとうございました。
0いいっすね。さすが。みんな運営とかやると本気で詩にコミットするから、いい味でてくる。オリジナリティーってやつ。特に最後がわけわかんなくて素敵。愛を求めることが生きることってかんじなのかな。だったとしたらすごくイノセントだね。そういうマジでクサイテーマは本気でやんないといみない。そうだね、あのみんなが口ずさむラブソングみたいに。
0Fantasmaさん、コメントありがとうございます。辛口な印象のFantasmaさんからすれば、かなりの好評をしていただけたようで嬉しいです。確かにこの詩はヨレヨレになりながらも本気度がかなり違ったと思います。立ち上がるための「最後の聖戦」みたいな。ここからもう一度スタートを切ろうと思っていたので、Fantasmaさんのコメを見て、それが一先ず成功している印象がしたので良かったです。ありがとうございました。
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