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月見ヶ浜海浜ホテル
そのホテルは海のそばにあって むかしから 多くのモノカキが訪れるという あの夜 僕はどうかしていた 長い闇のトンネルを抜けると 偶然ホテルのあかりが見えた 気まぐれに左に折れて車を停めた 重々しく見えた扉はすんなりと開き 呼び鈴を鳴らすとフロントはこう言った 「あいにく今夜も満室となっております。 それでもよろしければどうぞ。」 軋む廊下を歩く 客室から聞こえる自慰の声々 恍惚とした部屋の隣は苦悩に満ちたもので その向かいはどこか懐かしい声で唄い とある部屋は異国の言葉で唸りを上げていた 磨りガラスの窓から部屋の中をうかがうと その中のいくつかと目が合った その夜の僕はやはりどうかしていたので 手当たり次第 客室をノックして それらと交わった 波の音が近づいたり遠のいたりするのを 虚ろな頭のどこかで感じながら それらと交わり尽くした 中には 心底つまらないものもあったし しばらく忘れ得ないような 鋭く深いよろこびを感じるものもあった ただ それらは一様にくちづけを拒んだ 夜更け 僕は中庭に降りてベンチに座った 月はなかった ひどくたまらない気持ちになって 煙草を吸った ふぅ、と吐いたけむりが立ちのぼって ひとつの詩になってしまった 窓から誰かがじっと見ている 波の音は止むことがない ここは海のそばのホテル 僕はもうすっかり正気なのだけれど あれからずっと けむりを吐き続けている 僕はもうすっかり 正気なのだけれどね
月見ヶ浜海浜ホテル ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 2080.5
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 54
作成日時 2019-09-17
コメント日時 2019-09-20
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 5 | 5 |
前衛性 | 2 | 2 |
可読性 | 18 | 18 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 23 | 23 |
音韻 | 3 | 3 |
構成 | 2 | 2 |
総合ポイント | 54 | 54 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 2.5 | 2.5 |
前衛性 | 1 | 1 |
可読性 | 9 | 9 |
エンタメ | 0.5 | 0.5 |
技巧 | 11.5 | 11.5 |
音韻 | 1.5 | 1.5 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 27 | 27 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
アドバイスどころか上手にコメントもできませんが、好きです。終始暗い雰囲気であること、人間は自分一人しか出てこないこと、キスを拒む「それら」の心までは許さない交わりに、思想がよく反映されている感じがじました。
0いすきさん、嬉しいお言葉をありがとうございます。 丁寧にお読みいただき感謝いたします。
0沙一 さん、「夢のあわいに泛ぶような」とても美しい言葉です。 詩文を嗜む方に、こういうふうに深く読んでいただけるとは、とても嬉しい限りです。 「月」の解釈が素敵で、書き手として感銘を受けました。ありがとうございました。
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