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詩二編「あなたの瞳」、「晩秋と長い冬、そして春」
「あなたの瞳」 空は碧すぎて神殿たる雲は輝かしさを誇り 白樺の梢は降りそそぐ陽の光を浴びて 透きとおった葡萄のように紫に見え 薔薇の花はあまりにも紅く魅了し 邸を這う蔦は鮮やかな緑なす 眩い夏の日 わたしはあなたの弟の誕生祝いに向かう 馬車に母とならんで揺られていた あなたに会える 陽光と影が森を斑に染め、羊歯の茂みが走り去ってゆくと 午後の明るいときに馬車があなたの古い邸宅に着いた わたしは期待に胸を躍らせ染まりそうな紺碧の下を歩いた あなたへの贈りものをたずさえて わたしが通された涼しい部屋で 象牙のような白い肌をした可愛らしい少女である あなたは眼の下は蒼く翳り、黒い髪を細い頸の上に 白いリボンで束ねてお下げにしていた 階段から庭に降りると わたしは酸桃の籠をあなたに捧げた 細くて白い手は恩着せがましく受け取り わたしは足を後ろに下げて話しかけたけれども あなたは答えようとはしなかった どうしてぼくには何も喋らないの あんたは気取り屋さんだからよ あなたは白いリボンを蝶のようにはためかせながら 弟の手を引いてバルコニーに上がると わたしを軽蔑するように顔をあげた あなたは知るだろうか あの昔の恋歌を 月桂樹の下、オリーヴの木や震える葉陰に いつも立ち返り来るあなたへの想いを 時のいたずらよ、過ぎた日に わたしは青年になった今もあなたに口髭の下で恋を奏でようとする すべてを魅了するあなたの瞳は稲妻と涙の生まれ故郷であり 真実のように非情な翠玉 光が樹木と出会い小鳥が木の葉となる空色の森 水平線を鏤めて朝と出会う海辺の青さが わたしの眼を痛めようとする あなたは今、淑女となりわたしに話しかけるようになった 鳩のように優しい声で あなたが冬に友人たちと出かけた旅の記憶を まるで昨日のことのように もちろん、素晴らしかったわ、斜面を滑って雪が棚のように 張り上がったところから飛び上がったのですもの 空の中にまっしぐら あなたの言葉の残酷さよ わたしは微笑みを浮かべるだけで精一杯だった わたしの心はあなたの吐息に泣いていた 神々しい美女よ、あなたは美神か光神なのか なにゆえにその清らかな爪でわたしを切り裂こうとするのか あんたは気取り屋さんだからよ あなたとの楽しき時をわたしは夢に見る 人魚の泳ぐ洞穴のなかで あなたの美しい背中にかかる髪の房、煌めく銀色の尾びれが わたしの頬を撫ですぎてゆく あなたは知るだろうか あの昔の恋歌を やがてわたしがこの岸辺を去る時が訪れるだろう あなたとの出会いは別離よりも苦しく あなたの可憐な胸に波打つ捲毛を動かそうとする わたしの腕はあまりにも軽いのだから ある冬の日、雪にしとどに濡れて、わたしは去りぬ 澪風冷ややかにわたしの額を凍らせる樹氷のもとで 美しい乙女よ、全身が光であるひとに とこしえにわたしの心はあなたの上を彷徨うとしても 愛するひとよ、世界の美しいものすべてより美しいあなたに わたしの愛よ、希望よ、歓びよ、雪のように熱い気まぐれよ あなたの追憶よ、あなたの一瞬の瞳の煌きは今もわたしを気絶させるのだ 「晩秋と長い冬、そして春」 何と長い夜だろうか 白炎に燃え蒼色に澄む月影 葡萄の房の溢れる影に響くあなたの声 わたしが戸口を破門された公爵のごとく叩くとき 夜露に身を苛まれなが、開けて下さい、お願いです 風は山塊から弦を鳴らしてわたしの祈りの声を吹きちぎり それは太古の滝に谺して私の眼を襲う あなたの憂愁に心を傾けたとて何にもならない 残るのは茂っては散る時間だけだ 十月の散りゆく緑、訪れる冬の静寂 水のように黒く光るあなたの眼差し、柔らかな手も失せて 隔てられたあなたの顔を探すすべもない わたしは残されてただ日々の詩を書きつけ虚空に叫んだ 冬の終わりにあなたに道で出会った 幸福とわたしは聞いた とても幸福よ、そう見えるかしら そうですね、見ればわかりますよ どうしてあなたも幸福になろうとなさらないの あなたは眼を輝かせて叫んだ わたしは微笑んだ そして、あなたと別れた 染まりそうな紺碧、春が訪れ午後はやわらかに霞んでいる 森の幾筋ものつづれ折りの道を抜けると小さな木立ちがあった わたしは往時を思いながらそこに歩みいった 蔦の絡んだあずま屋があり、わたしは屋根に上ると 水蓮で覆われた流れを眺めおろした わたしは草原を歩き輝いていたあなたを偲んだ
詩二編「あなたの瞳」、「晩秋と長い冬、そして春」 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1574.0
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 3
作成日時 2019-09-01
コメント日時 2019-09-02
項目 | 全期間(2024/11/22現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合ポイント | 3 | 3 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 3 | 3 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
細かい点ですが、一部に誤りがありましたので修正します。 修正版をコメント欄に置きますので、そちらをお読みください。 「晩秋と長い冬、そして春」 誤>あなたは眼を輝かせて叫んだ 正>あなたは眼を耀かせて叫んだ 「晩秋と長い冬、そして春」 何と長い夜だろうか 白炎に燃え蒼色に澄む月影 葡萄の房の溢れる影に響くあなたの声 わたしが戸口を破門された公爵のごとく叩くとき 夜露に身を苛まれなが、開けて下さい、お願いです 風は山塊から弦を鳴らしてわたしの祈りの声を吹きちぎり それは太古の滝に谺して私の眼を襲う あなたの憂愁に心を傾けたとて何にもならない 残るのは茂っては散る時間だけだ 十月の散りゆく緑、訪れる冬の静寂 水のように黒く光るあなたの眼差し、柔らかな手も失せて 隔てられたあなたの顔を探すすべもない わたしは残されてただ日々の詩を書きつけ虚空に叫んだ 冬の終わりにあなたに道で出会った 幸福とわたしは聞いた とても幸福よ、そう見えるかしら そうですね、見ればわかりますよ どうしてあなたも幸福になろうとなさらないの あなたは眼を耀かせて叫んだ わたしは微笑んだ そして、あなたと別れた 染まりそうな紺碧、春が訪れ午後はやわらかに霞んでいる 森の幾筋ものつづれ折りの道を抜けると小さな木立ちがあった わたしは往時を思いながらそこに歩みいった 蔦の絡んだあずま屋があり、わたしは屋根に上ると 水蓮で覆われた流れを眺めおろした
0途中で途切れましたので、再度、コメントに修正版を置きます。 「晩秋と長い冬、そして春」 何と長い夜だろうか 白炎に燃え蒼色に澄む月影 葡萄の房の溢れる影に響くあなたの声 わたしが戸口を破門された公爵のごとく叩くとき 夜露に身を苛まれなが、開けて下さい、お願いです 風は山塊から弦を鳴らしてわたしの祈りの声を吹きちぎり それは太古の滝に谺して私の眼を襲う あなたの憂愁に心を傾けたとて何にもならない 残るのは茂っては散る時間だけだ 十月の散りゆく緑、訪れる冬の静寂 水のように黒く光るあなたの眼差し、柔らかな手も失せて 隔てられたあなたの顔を探すすべもない わたしは残されてただ日々の詩を書きつけ虚空に叫んだ 冬の終わりにあなたに道で出会った 幸福とわたしは聞いた とても幸福よ、そう見えるかしら そうですね、見ればわかりますよ どうしてあなたも幸福になろうとなさらないの あなたは眼を耀かせて叫んだ わたしは微笑んだ そして、あなたと別れた 染まりそうな紺碧、春が訪れ午後はやわらかに霞んでいる 森の幾筋ものつづれ折りの道を抜けると小さな木立ちがあった わたしは往時を思いながらそこに歩みいった 蔦の絡んだあずま屋があり、わたしは屋根に上ると 水蓮で覆われた流れを眺めおろした わたしは草原を歩き輝いていたあなたを偲んだ
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