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詩四編「あるひとによせて」、「木」、「春」、「新鮮なあなた」
愛する妻に捧ぐ。 あなたは少なくともわたしの命を救ってくれた。 「あるひとによせて」 神は聞く いかに生きるべきかと あなたに逢うた時、わたしは心うたれた なんと可憐なひとであったことか 高貴な家柄よりもあなたの愛は尊いと思う 時は過ぎゆく 手のひらの雪のような口づけと 青春の儚さを乗せて 神は、あなたに創造の粋をたくされた あなたにすべてを捧げよう 神は聞く いかに生きるべきかと 「木」 わたしは木に触れた 樹液に濡れた木 細い枝 瑞々しい若葉 もうすぐ木は花咲くだろう 今は春なのだから きみは木だ 誰も気がつかないが そのほっそりした腕には 美しい手が花のように開いている 顔はぼくの冗談に赤く染まる 風がきみの緑髪を祝福するために 獅子のたてがみのようになびかせる そして背の高いきみは永遠に美しい緑に溢れるだろう 「春」 碧い空に染められた雪 溶け出した川 雪柳の林は風に揺れる すべてが光に照らしだされていて 小鳥たちは葦の岸辺で囁きをかわしている そして、追憶の中に身を潜めていたあなたが 軽い緑の服を身にまとって帰ってくる 懐かしい美しい日々よ わたしはふたたび愛することができるだろうか 空の光と風の揺らめきの中で 訪れていた儚い遠くないころを かつて、わたしは川をこえ、草原を歩き あなたと愛の囁きをかわした 今、この場所で思い出のそよ風をわたしは聴いている 遠い国で海の風の匂いを身につけたあなたを抱きしめよう すると、細くて長い指を持つあなたの白い手が わたしの喉に触れるだろう その欲望とともに 長い冬が終わり木立のなかで春の声が鳴いているのだから 「新鮮なあなた」 またひとつ時が落ちて消えてゆく形象と記憶 白鳩の時代の女性 公園の噴水の上を見上げれば真青な空が そして白い鳥の群れとオレンジの薫りをはらむ南風 いうにいわれぬあなたの新鮮さ ぼくは幼かった時、驟雨のあとで 庭の薔薇を揺することが好きだった あなたはあの薔薇の木だ まあ、あなた 来たのね 明るい声が言った そして、ぼくはまだあの頃の少年なのだ 静かな水は風にさざ波を描きだし あなたの蒼い姿は水につかって 豊饒のしぶきをぼくに浴びせかける 水辺であなたがぼくの凝視にとりかこまれる時 あなたは水よりも透明で緩やかに形を変えるようだ あなたは前に屈むとその美しい黒髪が ぼくの膝に水草のような縞を作りだす ぼくとあなたのあいだに甘い音の時は移ろってゆき 愛の流れにぼくは驚き呆れている 待たせちゃったかしら 長い時だ、ぼくはこの歳になるまであなたを待った ぼくとあなたは郊外の森に出かけた 晩夏の茂みに優しく光は揺れ 風は婚礼とともに流れている
詩四編「あるひとによせて」、「木」、「春」、「新鮮なあなた」 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1808.2
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 8
作成日時 2019-08-29
コメント日時 2019-08-30
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 4 | 4 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 2 | 2 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 8 | 8 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 4 | 4 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 2 | 2 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 8 | 8 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
瑞々しい想恋夫(妻)の様な抒情詩だと思いました。何かこれからの秋風、素風、白秋、さわやかな風の音が聞こえて来る様な、古今和歌集の秋来ぬとの和歌ではないのですが、全編が、最終連の「新鮮なあなた」のタイトルに相応しい詩内容、詩表現だと思いました。
0エイクピアさん コメント有難うございます。 妻への感謝を連詩にして表わしてみました。 各々の詩に個性があるようにし、かつ、一貫したものになるように書きました。 一応の成功を見たようで良かったです。
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