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旅立ち
霧の海で溺れる赤ん坊を、誰が抱き上げてくれるのだろう? 灰色の空から垂れ落ちてきた透明な泥が、もがく腕を絡めとる。 震える掌から零れたのは、くしゃりと潰れた煙草の箱。 耐えて、耐えて、耐え忍んで。 唯飼い慣らされた、意識の脆さを知る。 印刷された「救いあれ」の福音すらも、この空の底には届かない。 いっそ何もかも捨てて、溺れ死んでしまおうか? 酸欠の脳は心地よい苦しみを求めて、胸の内の夜に自らを沈めようとする。 悪魔が嘯く。 耳の産毛を撫でるような、母親に似た優しい声で。 「そうやってお前は逃げるのさ。 共に溺れる同胞、 自然科学、 薔薇の花弁に隠された真実からも目を逸らして」 愛おしいその声で覚醒する。 一人立つここは枯れ果てた荒野。 白濁した眼で見据えるは、茫漠とした世界。 終わりの空が、地平線の彼方から俺一人を見下している。 ぽつりと浮かぶ太陽を一口齧り、中指を立てて歩き出す。 重たい荷物なんかいるもんか。 丈夫な革靴なんて糞くらえ。 吹けば飛ぶような身体と、老いた驢馬が一頭で十分だ。 陶酔と祝福に包まれて、俺は砂漠へと旅立った。
旅立ち ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1358.7
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2019-07-18
コメント日時 2019-07-19
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
>ぽつりと浮かぶ太陽を一口齧り、中指>を立てて歩き出す。 >重たい荷物なんかいるもんか。 >丈夫な革靴なんて糞くらえ。 >吹けば飛ぶような身体と、老いた驢>馬が一頭で十分だ。 はじめまして。 ここら格好いいですね。孤独、であることに気づくことが旅立ちの始まりなのでしょうね。ただ頭で抱き上げてくれる人を求めている心境もあるのは人間の当たり前の心の動きなのかな、と思いました。
0帆場様、はじめまして。 人は自由=孤独であることを認めて、ようやく真なる孤独に向き合い始める。そんな普遍的な心の働きを裁断してみたらどうなるかと思い、半ば投身するような気持ちでこの詩は執筆いたしました。 抱き上げてくれる誰かを求めるのは、その裁断に至る過程の一つなのではないのかなあと思います。やや小説的な語り口かもしれませんが、放浪に至る前の感傷として必要と思い、冒頭に書き添えました。 コメントをありがとうございました! 上記の通り詩のなんぞやについては全く知らない未熟者ですが、帆場様の詩も拝見させていただきたいと思います!
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