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彼女が、待っている。
工場跡の廃棄物から顔を覗かせたペルシャ猫。 駅のホームへ駆けだしたはいいが、満員電車から締め出されたコクトー。 壊れたアップルウォッチを容易く投げ捨てるマザー・テレサ。 イヤなニュースは飽和してデフレ気味だ。 青の空は今日に限っては低空飛行で僕らの胸に食い込んでくる。 楽園の入り口は今もって見つからない。 非常階段を駆け下りて、踊り場で見つけたのは 昨日webで買い戻した未来行きの片道切符。 君との恋愛ゲートが閉ざされたのは 不幸せが描かれた曼荼羅と≒だけれど 僕の従者であるボルゾイの毛は逆立ったままだ。 まだ終わっちゃいないと中枢神経が呼びかけている。 僕はこの場所にずっといるつもりはないし 改札口を抜けたら電子マネーも紙幣もいらない、カタルシスの渦中に飛び込むつもり。 「真実。過酷な真実」ダントン。 「悲しみは、単独では来ない。かならず群れをなしてやってくる」シェイクスピア。 「自分はちっぽけで何の価値もない」カート・コバーン みながロンドンバスに乗っている間に ペシミスティックな名言が飛び交うけれど 今の僕には、悲劇を手招く今際の言葉なんていらない。 知ってるかい? 君が想いを寄せた女には男がいるんだ。 腐れ縁の悪友が吹聴しているけど構いはしない。 安価なアジテートは頭の中で空虚にリフレインして唾棄されるだけ。 男がいるんだ。 男がいるんだ。 男がいるんだ。 君が想いを寄せた女性には。 君が想いを寄せた女性には。 君が想いを寄せた女性には。 朝方のシャワーを浴びればすべては清算される。 太陽が上昇した暁には、暗雲も一括デリートされて 今日もこなすべき仕事が待っている。 顔を洗い、一つ頬を両手で軽く叩いて鏡を覗き込むと ちょっとした覚醒の時間だ。 凝縮されたコカの葉のように 短い時間で沸騰した電磁波のように 僕は燃焼し尽くして、恍惚域に達する。 迷路は出口があるべくして用意されているもの。 狭い廊下を抜けて、過去と未来を詰めたバッグを取りに 僕が惹かれるあの娘が、一人作業をする相談室の扉を開ければ 彼女が、待っている。
彼女が、待っている。 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 2462.6
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 22
作成日時 2019-06-05
コメント日時 2019-06-14
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 1 | 1 |
可読性 | 4 | 4 |
エンタメ | 5 | 5 |
技巧 | 6 | 6 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 3 | 3 |
総合ポイント | 22 | 22 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 0.5 | 0.5 |
前衛性 | 0.3 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 1.3 | 1.5 |
技巧 | 1.5 | 1 |
音韻 | 0.3 | 0 |
構成 | 0.8 | 0.5 |
総合 | 5.5 | 5.5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
仲程さん、コメントありがとうございます! 僕は元々音楽畑の人間なので、メロディがありそうという評価は嬉しいです。だがしかし! その音楽的な詩というものを僕は克服しようとしている最中なので、テキストとしての面白みはあまりなかったのだろうか、と少し残念にも思いました。 名言の引用、≒曼荼羅、胸に残った言葉の反復など。それらは決して完全に新規な試みではないかもしれませんが、この詩を読むと「面白いことしてるじゃないか」と自分でも笑えるくらい、肯定的評価を付けたくなります。 これからは、音楽的なリズム、抑揚だけでなく、テキスト、文面、現代詩としてのインパクトを感じさせる詩をもっと書きたいですね。精進あるのみです。
0安定の面白さですね。 青の空、今もって…など、言葉のポケットの多さが素晴らしいです。 ラストが美しい。 とても良かったです!
0せいろんさん、コメントありがとうございます! 青の空というのは本当にいい表現ですね。僕自身その一節はとても気に入っています。言葉のポケット! その表現いいですね。いただきます(冗談です)。 ラストの美しさに言及していただき、感謝です。この詩はそれこそラストの「彼女が、待っている。」に持っていくための詩でもあったのですから、嬉しさは倍増です。ありがとうございました。
0空 青は、数字の8のと関係しています。 慈悲と無の象徴です。
0ohiraさん、コメントありがとうございます! 空と青は 数字の8と関係。知らなかったです。神秘学的な何かでしょうか。 何れにせよ慈悲と無の象徴とは。なかなかに深みのある解釈がまた一つ出来ました。
0拝見しました。 ふーむ、本作を読み取るだけの私の学力が不足しているようではありますが、かなり面白いことを試みているように感じます。 ≒の使い方なども中々今までにないようなテクニックと感じました。 彼女がどういう存在なのか分かりかねましたが、近くにいるようで、遠くにいるような、不思議な距離感が面白いです。 何となくですが、ステレオさんの昔の作品っぽい雰囲気も感じました。
0ふじりゅうさん、コメントありがとうございます! この詩の彼女とは、ズバリ職場の同僚なんですね。笑えることに。その女性に想いを寄せてはいるが、彼女には彼氏がいてそのことがネックになっている。そういうシンプルな構造がこの詩の土台にはあります。ツイキャス放送にて賛辞をたくさんいただいたので満足していますが、一点ふじりゅうさんが分からなかったという箇所。「壊れたアップルウォッチをマザー・テレサが」という一節。これは貧しい人、恵まれない人のために尽くした聖母のようなマザー・テレサでさえ、アップルウォッチという決して安くはない代物を、壊れたからと云ってたやすく捨てる。それはなんて悲劇的で憂うつなニュースなんだ、といったニュアンスが込められています。初めの三節における、ペルシャ猫、コクトー、マザー・テレサは何れもそのような印象を喚起するために使われています。これは僕が培い、育てたテクニックの一つではないかと僕自身自負し、この種の描写は大変気に入っています。最後に昔の僕の作品っぽいとのご指摘。どの作品だろう、と純粋に気になりました。
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