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骨を拡げる
私はほんの少し骨が拡がればいいと思いました。私はいつでも、どこか、人とは違うものでありたいと強く思っております。それはきっと必ず、人間が思っている部分で、私は汚いものだと思いました。だから私はいつまでたってもそういうものから離れられませんでした。 小さい頃から私は、自分が最強でありました。たとえ、父に殴られても、母に目の前で泣かれても、いじめにあっても、犯されそうになっても。そしてその時の感じたこと、思ったこと。例えば涙を流したり、恋をしてフラれたり、手が出そうになったり、お腹が減ったり。それら全て、私の全てを肯定してきました。そして、後悔の全くない、素晴らしい人生を送っていました。やはり、人の上に、というよりは、何かを演じるという上では、私は強かった。こんな奴等に怒ってても無駄である。私はもっとレベルの高い者と話がしたい。でもだからこそ、彼らの遊びには付き合わなくちゃならない。そして吸収して、いつだって最強でいなくてはならない。そうしていく間に私は、嘘ばかりつくようになりました。たくさん笑う人間になりました。笑う門には福来るとはよく言ったもので、沢山の福がきました。そして、色々なフシメにも僕はいて、運命も私に最強になれと言っている様でした。私は私に関わるもの全てを肯定しました。 ある時気付きました。肯定ばかりしていると最強ではなくなる、と。その頃から私にとって最強なのは、お金を持ち、妻を持ち、タバコを吸い、困った人がいればその人の話をよく聴き、ポツリと大切な言葉だけを残していき、敵わぬ相手にも立ち向かって行けるような強靭の精神を持ち、その人に関わった人がみんな笑顔になるような人でした。 私はそんな人間になるべく、否定することを覚えました。ですが、仲間には可哀想であまり否定出来ませんでした。結局自分が一番大事な自分が、凄く悲しく、負けそうでした。そんな時に舞台にあがりました。はじめて、演劇以外であがる舞台でした。当然のように、演じました。仕事でもなんでもないただの学校の部活。当然のように周りを観察し、この部活に無いものを探しだし、当然のように演じました。そういう事に優れていたのです。自分の個性という物を確立させることに、優れていました。そして、ここなら沢山の人間を否定できる、僕は君達とは違う、ということを叫んでも害がない所だと直感的に感じていました。そして、そんな人間に人は感動するんだと学びました。 ちょうど思春期、沢山の刺激が私の前では蠢いていました。個性は付け足しだと思うようになったのも、この時期です。そしてこの頃から、世界はグッと拡がり出しました。 必死になって否定出来るものを探しました。政治、愛、平和、貧困、海外、流行、有名人や愛国心、色々な事を否定していこうと探しました。ですが、次にぶち当たった壁は同じ事を考えている人間でした。僕の考えがまるっと同じな、それでいて素晴らしい言葉で歌う人を何人も見てきました。僕は同じ思いの歌に鳥肌が立ちながら、カッコいいと思いながら、どこかで悔しく、結局人間は皆同じなのではないか、という虚しさに襲われていました。 その後も否定する作業をしていけば、同じ思いの人間にぶつかる。深く否定していっても、同じ思いの人間にぶつかるという事を繰り返していました。もうこの世は否定され尽くしたのではないかと思うくらい、もうここが思考の限界なのではないかと思うくらい、否定と肯定を続けました。私はたぶん、絶望したと思います。気持ちが分かるという絶望感はもう、誰かが通った道だ。そう考えると私は、この無限に続く絶望がまるで、死ぬまで降りていく螺旋階段のようで、みんな一段ずつ開けて確認して閉じて降りて、そのままドンドン地獄に向かっていくようで、生きていく事への恐怖と死んでいく事への恐怖に殺されそうになりました。そしてこの頃から、最強というものが分からなくなり、個性を確立させようとすることで精一杯でした。 当たり前のように、私は人に頼りました。どうにかして生きることを楽しいものだと思い込もうとしました。ですが、頼るというのは同時に僕の中の弱い部分を見せる事というで、今まで最強に生きようとしていた人間にとったら、裸にされるなんて事よりも屈辱的で恥ずかしい事でした。それでも、僕は生きようとしていました。 そして、私はそれに慣れてしまいました。誰かに頼れば生きていける、弱く私は脆いものなんだと言えば、必ず誰かが救ってくれる。 私は他人に頼ってしまったことで、最強にはもうなれないと深く傷付きました。そして、頼ってしまったことで、初めて僕は、人と同じなんだ、と気付きました。 絶望感は無限に拡がり、羞恥心と共に語る無駄な話、そんな無駄な話を聞く頼られた人々。そしてそれが永遠に続き、死ぬまで繰り返す。なんて私の人生は無駄なものなのだろうか。私の人生に関わった人間に、なにもしてやれない、何も与えてやれない、無駄。無駄なもの。無駄な命。 明日の事ばかりを考えては、明日生きるために言葉を喋る。繋がりを感じていたい為に、切れぬ前に約束する。嘘をついては弁解し、これが本当と嘘をつく。そして今も私は、綺麗な言葉を並べ誰かに理解してもらおうと考えている。私はそういう人間です。 そしてこの歳になって、私は生きることにも死ぬことにも、飽きてしまった。人に関心がなくなり、考える事に疲れを覚え、誰かを演じる訳でもなく、自分を演じる訳でもなく、ある意味、アイデンティティーが保たれ、なんの面白みもない、人間になりました。 だが、そんな私も演じ続けて30数年。いろんなものに答えを置き始めてる。音楽とは何か、笑顔とは何か、言葉とは何か、演技とはなにか。悲しい事だが、私は今、安定を求めている。そして、誰かにその答えを壊される日を待ち望んでる。今日もまだか、今日もまだかと待っている。 きっと、骨がほんのすこし拡がればいいと願うのと同じで、また最強を目指す為の火種、違うモノになりたいと思う気持ち、それでいて無限に続く日々の終末。そんなものを私に教えてほしいのです。 私の骨は貪欲に、まだまだ拡がる事を願っているのです。
骨を拡げる ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1125.7
お気に入り数: 0
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ポイント数 : 1
作成日時 2019-04-30
コメント日時 2019-04-30
項目 | 全期間(2024/11/24現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 1 | 1 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 1 | 1 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文