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愛という名の種子が
僕と君のアイデアは 一つも叶えられないまま「R.I.P」と腕に刻まれては 激流に飲み込まれていく 渦を巻く濁り水の行き着く先は きっと涙の流れない地の底だ 血液のひとしずくでさえも枯れきって 渇いた咽喉に注ぎ込まれるのは 希望という名のガソリン 新聞やワイドショーはあおり立てる 議員の不貞やアーティストのドラッグ 民衆は声をあげて石を投げたけど 彼女は賢かったらしい 最初からそっぽを向いたまま 一言もさよならを告げずに舞台袖で会釈をして立ち去った 多分彼女は僕と君の腹違いの兄妹だ 旧訳にも新訳にも枕草子にだって 僕らの居場所がないのは サイを振る前からわかっていたこと 孔子からの便りなんてあるはずもないし シヴァにあてる手紙もない 僕と君の交わした言葉は一瞬のうちに消えていく 二人が抱きつづけたアイデアと同じように 蛇口からこぼれる水滴は 翁と嫗に変わりゆく僕らを生かし続けて 胸に張りついたフラストレーションは 甘美なまま二人の胃袋に落ちる 通りですれ違った青年たちが 心から笑っていたのは幸せなことだ 僕らのつないだ指先がまだ離れていなかったことも 君の吹いたタンポポの種が青い海へと落ちていく それは排気のない島へと流されて 「歓びを」の声とともに芽吹くだろう 僕は海に浸した髪を後ろに撫でつけて 若さや老いが遠ざかるのを知る 体から離れ 魂から離れ 一つになれず すべてにもなれない物質は 喪失の歯車に踏みにじられていく 煙草の灰をもみ消した情婦が 部屋から出ていったのはもう随分昔のことだ 今では僕と君は海辺の白いドームで身を寄せ合っている 僕と君のアイデアは 一度も叶えられることなく「みなしご」の烙印を押されては 濁流の底 地の底のもっと奥深く 悲しみの声さえ届かない真っ暗な場所で 身を凍えさせて消失していく そのプロセスになぜ? だなんて問いはない 意味もなく 言葉もなく 心もなく それは楕円を描いて地面に落ちるだけ ただ それだけ 遠くへ飛んでいく 遠くへ 遠くへ 遠くへ タンポポの種が 遠くへ舞い落ちる 遠くへ 遠くへ 遠くへ 愛という名の種子が
愛という名の種子が ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1749.2
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 11
作成日時 2019-04-27
コメント日時 2019-05-09
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 4 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 4 | 3 |
エンタメ | 1 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 2 | 2 |
総合ポイント | 11 | 7 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 0.7 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0.7 | 1 |
エンタメ | 0.2 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0.3 | 0 |
総合 | 1.8 | 2 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文