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ミハイル
お前らのように金を着て歩いているような連中にはどの子供も売ることはしないのだ。特にお前らが欲しがっている青い瞳のあれは、もっと薄汚い連中にお手頃な値段で売りつけるのさ。 「その哀しそうな青い瞳の」 老夫婦はそういって、口の中の虫歯を調べさせた。 汚い、汚い、汚い。視界の一番端っこのほう、ちょうど手をかざすと耳のあたり。汚い視線を全部もぎ取ってさっきトイレで全部捨ててきた。それにまた枝毛。自分が四十歳くらいになった気がして、これだけはどうしても許せない。何よりお母さんに似てきたと言われるのが一番嫌いだ。私の髪の毛は私の特注品であの人からのお下がりなんかじゃないんだから、ちょっと前に職人を呼んで漆で髪を染めさした。でも漆の黒はちょっと艶がありすぎるし、以来肌がかぶれてしまったのだろう、最近顔のあちこちに小さくてぶつぶつとした吹出物ができるようになったのがとにかく気にくわない。次は墨で染めさせようか。そうだ今度はミハイルにやらせよう。彼の私の髪の毛に指を通す手の、滑らかな温もりを思い出して体温が少しだけ上がったのが分かった。地下鉄がちょうど上に出て肌を照らした橙色の光が正午過ぎを告げている。 学ランをきたミハイル。ブレザーを着たミハイル。それとも袴をはいたミハイル。どれも捨てがたいけど、今日は何を着せようか。アラビアの闇市で商人に売られてポーランドに飛ばされた可哀想なミハイルは奇特な老夫婦に養子として迎えられて、今では私と同じくらいの美しい少年。その憂いのある透明な瞳や長い睫毛を見ていると、私のなかに包み込んで私の全てを捧げたくなる可哀想で美しいミハイル。数学が得意でバイオリンとピアノも弾けるけど、彼の数式も彼の弾くどんな曲もどこか悲しげで美しくて儚くて、私はそんなミハイルのただひとりのお友達。そろそろどこかに捨ててこようかな。そもそもそんな人いない訳だし、そんな小春日和。
ミハイル ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1659.1
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 1
作成日時 2019-04-14
コメント日時 2019-04-24
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合ポイント | 1 | 1 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 1 | 1 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
拝見しました。 流石です。素晴らしいという他ありません。 ミハイルとはミカエルを語源とした、ロシア語の人名だそうですね。それを知って、人身売買を主観的に追う作風や、ミハイルへの曲がり切った愛やミハイルの人物像がくっきり浮かぶようになりました。 構成がとても良いと感じます。1連目は話し言葉で、本作が主観的に進行することを理解させると共に人身売買の描写、主人公にとっての「奇特」な老夫婦、そしてミハイルへの曲がった愛へとバトンを繋げています。2連目、汚い、汚いという連呼から始まる主人公の汚らしい情景。3連目にどこか悲しげなミハイルや、その半生が語られ最後にまた主人公の主観。ねじ曲がったものをねじ曲がったまま、一気に突っ走らせるように読めてしまう構成は筆者の類まれなる実力でしょう。とてもお気に入りな作品です。久しぶりにsurvofさんの作品をお読み出来まして、嬉しく楽しく読ませて頂きました。
0ふじりゅうさん コメントありがとうございます! 最近、ずっと食わず嫌いだった太宰治を立て続けに読んだせいで、すごく影響を受けて書きました。特に淀みなく流れるような文体や「晩年」での実験的な手法などとても魅力的に感じていて、おまけに「女生徒」など女性の一人称の物語を語らせると絶品なので、自分も一つ書いてみようかな、、と思ったのがきっかけでした。が、だいぶ難しいことが判明しました。 個人的な課題としては本来は主人公の少女(一応そういう設定)の妄想の産物にすぎない「ミハイル」の存在感が大きくなりすぎて、主人公の人物像とか感慨が薄くなってしまった感があることが反省点です(ミハイルに対する主人公の想いをなるべくベタベタな表現にすることであくまで妄想上の存在であることを強調しようとしたのですが、地の文章のほうも結構ベタなのでその対比がうまく機能していないかもしれません)。 特に最後の >そろそろどこかに捨ててこようかな。そもそもそんな人いない訳だし、そんな小春日和。 の部分に一番伝えたいことを詰め込んだつもりなのですが、この辺りの「逆転の構図」みたいなものが十分機能しなかったかもしれないのがちょっと悔しい気もします。 ミハイルという名前も、北ヨーロッパっぽい名前だったらなんでもよかったんですが、いざ名前を探してみるとなんだかヨーロッパの名前は宗教的な由来のあるものが多くてニュートラルなものはなかなか難しく、結局あまり深く考えず一番響き自分の好みにあうもの(というより主人公の少女の人物像に近いと感じた響のもの)を選んでます。それをそのままタイトルにしてしまうのはどうなの?って感じもしますが、もっとタイトルだけでも工夫があればだいぶ違ったかもしれません。 >ねじ曲がったものをねじ曲がったまま、一気に突っ走らせるように読めてしまう構成 これは、とても嬉しい感想ありがとうございます!これは意識して結構凝って書いた部分だったのでそれだけでも伝わったのは嬉しいです。
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