別枠表示
三月の泡
彼女は三月になって 自分がもうずっと遠くいることに気づいた。 並木道が緑の色を吹き始めた季節 去年のサンダルをつっかけてた彼女は 水色のドアを開けて、アパートを出る。 ずっと遠い場所で太鼓が鳴っていた。 そんなのはきっとささやかな運みたいなもので、 長く続いた嵐についてもう思い出せない。 ずっと昔の船は静かな凪の中を進んでいた とてもゆっくりだけど。 とてもゆっくりだけど 歩いている 人がいて どこにももう行けないと思って 螺旋階段を昇った そのずっと先に 三月はささやかに泡立って ひっくり返すのが怖かった砂時計の中から 懐かしい人が手招きしていて。 懐かしい、という気持ちはこんなものだったと 君は思い出した。 海はもうずっと遠かったから、そんなに怖いということもなくて。 彼は長い旅から今戻ったところで それは割れた硝子が長いこと海の中を流れて、 熱を出した子供を撫でる母親みたいな滑らかさで ずっと昔の船は今どこかへ向かっていた。 とてもゆっくりだけど。 とてもゆっくりだけど 変わっていく ものもあって どこにでも行けると思ったとき 螺旋階段を昇った そのずっと先に ソーダ水のはじける音みたいに 三度目になった君の言葉が、祈りを象る。 目を覚ましたらゴミ収集車は行ってしまっていた そういうことはつまるところよくあった。 三月の泡の中を日差しが垂れおち シラップの金色が空気にとろけていく。 バスを待つ間に思い出す映画のワンシーンみたいな海を 君たちは漕いでいく。 それはきっとささやかな運みたいなもので とてもゆっくりだけど。
三月の泡 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1595.8
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 19
作成日時 2019-03-21
コメント日時 2019-03-29
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 8 | 8 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 4 | 4 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 3 | 3 |
構成 | 2 | 2 |
総合ポイント | 19 | 19 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 1.3 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0.7 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0.3 | 0 |
音韻 | 0.5 | 0 |
構成 | 0.3 | 0 |
総合 | 3.2 | 2.5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
とても文体が穏やかで、すらすらと入って来ます。 ささやかに泡立って、など、初めて聴いた表現なのにどこか懐かしさを感じました。 また三という数字が繰り返され、同じ三月でも、表象されているものが連によって変わるので、読んでいて飽きない。また、遡っていくような強いストーリー性があり、散らばった三の表象が彼と君という関係に収束されていく。割りと詩の輪郭がぼんやりしているように見えるけれど、叙情が溢れている。そこが人肌の温度のように心地よく、穏やかな気持ちになりました。
0作者は叙情性を狙っているのであろう箇所が全体のテンポを悪くしている。たとえば >水色のドアを開けて、アパートを出る。 なんてまさにそうで、作者の脳内にあるイメージを端から全部書いてしまっている。饒舌すぎるのは飛躍を阻害する。
0この詩のリズムがキマり切っていたらそれは鼻につくと思いませんか 形はカチっと決まってて、かつ技巧的な比喩が大量に積まれてる でも、受け手に投げる印象としてはリーダビリティが高く素朴な感じを出したい そういう思惑で地の文のリズムは一定崩しているんですが この文章カチカチにする必要ってあるだろうか?
0酷評OKタグあるから追記するけど、この詩の場合「全体の」テンポが悪いため、マイナス方向でリズムがキマり切ってるとも言えるわけよ。
0よく晴れた暖かい日にみる白昼夢のような詩だと感じました。
0