別枠表示
明亜六景
#七尾の虹 此処の俄雨の後に架かる虹は少しばかり変わっていた 七色の中心点から赤は海へ、黄色は山へ、紫は都会へと それぞれが一色で橋を作っていた この町では七尾の虹と呼ぶそうだ この町に住むお婆さんは、駄菓子屋のベンチに座り呟く 「今日は青が私の家の方に架かってるねぇ。水玉が漂うから帰れないわ…」 私は青が架かる方角を目指す ある交差点で水玉がふわふわと漂っていた 壁に当たり染み渡り、暑さに蒸発のする音がした くっ付き過ぎて落ちて来た大きな水玉は 知らない家の屋根瓦を壊した 空を見上げ、あの中心点はどんな事が起きてるんだと 肩の震えが止まらなかった #嫌音通行時間帯14:00~14:45 さっきまで笑ってたのに、急に皆そわそわしだした 私は独りぼっちになった町をぶらぶらしていると おじさんに「何ふらついとんだ!早くあがれ」と怒鳴られた 渋々と家にお邪魔すると間もなくして 遠くから段々と嫌いな音の群れが近付いて来た 電車が停車する時の金属の擦れる音を始め クラクション、衝突音、皿の割れる音、非常ベルやらが来た おじさんから貰った耳栓を付け、更に手で耳を塞いだ それでとても煩かった 通り過ぎたかと思えば、また向こうからやって来た 完全に鳴り止んだのは14:46からだった 町の人じゃないと知ったおじさんは私に言う 「貼紙が町の至る所にあるから見なさい。そこに嫌音が通る時間が書かれてるから。間に合わなかったら適当な家に上がらせてもらわないと駄目だぞ?鼓膜が破けるからな。」 この町は美しい、だから町と町との話し合いで こんなに美しいなら少しくらい汚くても良いだろって 嫌われる音が運ばれる様になったそうだ 他の町はそれで美しくなったかと言うとそうじゃなくて なんだか音が物足りない町になってるそうだ #巻き貝図書館 風変わりな図書館が在ると聞いて 私はそこで本を借りてきたばかりの同年代の男性から 言われた通りの道を辿る 巻き貝図書館は海辺の近くに在った だけど形は正方形で、寄居虫は一匹もおらず落胆した 海中を漂う風鈴海月の方に期待するしかない 私は休憩のつもりで中に入る あの外見からは想像の出来ない渦巻く遠い天井 先程の落胆から興奮が蘇る 声を出して喜びたいけど、図書館のマナーは知っている 私は無言で螺旋階段を登る どんな構造をしているのだろうか? 二階建ての大きさなのに10分程は登っているのに 一向に上の本にありつけない きっと面白い本が有るのだけれど 諦めて私は降りる事にした #風鈴海月 図書館を出て海へ向かう 砂浜で休憩するのを忘れた事に気付いたが、休んだ事にした 膝くらいまで海に浸かる チリーン…チリーン… チリーン…チリーン… 風鈴海月が泳いでるのだろう 音のなる方へバシャバシャ、汚い音を立てて歩く この辺だろうか 私が近辺をうろつくと、その時に出来る乱暴な海流で乱れた音が鳴る チリーーン、チリンチリン、リンリンリン 素敵な薄緑のラムネ瓶みたいな風鈴海月を見付けた 私は掬い上げてみる、まるでビニールの様な肌触りだ 風鈴海月はくたっとしていて 軽く振ってみても風鈴の音、プルプルって音もしなかった 海へそっと帰してあげると、チリーンと音を鳴らした 私は余韻まで耳に焼き付ける為、暫くそこで目を閉じた #冬将軍狩り 好きな漫画に出て来る空き地みたいな場所で何やら 険しい人達が水鉄砲と火の付いた棒を持ってる 「去年は討ち取れなかった為に冬は-30℃を記録した。今年こそは冬将軍を討ち取り冬を迎えるぞ!」 会長らしき人がそう言うと、皆は団結し声を「オー!」とあげる 私は無断で最後尾に着いて行く 町の人から「頑張って」と言われたが、私は此処の人じゃない だけど言えずに、これまた好きな漫画に出て来る 学校の裏山付近に着いた 険しい人達が山の中に入っていくのを黙って見送った 道端のお姉さんに話を聞いた 「この町には毎年、冬将軍が出て来るの。やっつけないとその年の冬は凄く寒いの。」 「水鉄砲は何の意味があるんですか?」 「あれはね、中に灯油が入っていて先端にライターが付いているのよ。引き金を引くと同時にライターに火が付くのよ。考えるわよね。」 私は冬将軍が気の毒に思えてきた #猫道の煙草屋さん もう陽が暮れた 建物と建物の僅かな隙間から猫が横切った 私はそこを猫道と勝手に呼んでいる 猫道の真ん中にドアが有り、明かりが零れていた 私は少しばかり人目を気にしたが入る事にした 胸が壁に擦れて痛いが、女性としては誇らしい事?と 変な笑みを浮かべていた 雨避けのせいで見にくいが、どうやら煙草屋のようだ シャツが汚れてしまったが仕方がない 私があれこれ足掻いてるのを 煙草屋のお婆さんは呆れながら見ていたのだろう 中に入ると呆れた顔で言った 「余所者かい?よく気付いたね…。ここの者なら猫に使いを頼みなさいな…。」 「あ、余所者です私は。」 「そうかい…。」 知っている煙草が少ない どれも奇妙なパッケージの知らない煙草ばかりだ 私は黒に点々と黄緑の付いた箱に手を伸ばす 「これ下さい。」 「290円だよ」 お釣りを渡し、今度は足掻いて店から出る 私は早速、一本火を点す 吐いた煙りに蛍みたいな粒子がキラキラと輝いていた
明亜六景 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1126.8
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-12-19
コメント日時 2018-12-29
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
よく、小さい頃から架空の町や国の地図を書いて、細かい設定を付け足す遊びをしていました。 この観光詩が、それまでやって来たことに活かされていたならうれしいです。
0巻き貝図書館。この図書館名が実在するのであれば、ごめんなさい。このネーミングは素晴らしい。素晴らしく村上春樹的なネーミングです。カオティクル氏には村上春樹の短篇集を是非読んで欲しいな。
0