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恩讐
母は産院でウィスキィの小瓶を肌身離さないので 怒った婦長に追い出されたと言う 恐らくは悪阻の度に アルコホルで痛みを誤魔化していたのであろう 母は産まれた私に母乳を飲ませると聞かなかった まだ意識のない私が吸う乳首からは ゆらゆらとしたアルコホルのかほりがした ゆらゆら ゆらゆらと 酩酊して私は生まれた 母は私に産湯を浸からせることも無理だったので 母方の祖母がわざわざあづさで上京してきて 年老いたその手で私を洗面器におよがせた ゆらゆら ゆらゆらと 白黒TVを見ながら私は泳いだ 東京オリンピックが始まっていた 母との暮らしは不安定なワルツのようで 彼女を守るために私は無表情になり ゆらゆら ゆらゆらと 心も身体も滅茶苦茶に振り回されて 私は泣いた やがて年月は無常に流れて 母は弱り切ったその身を安楽椅子に委ねるようになり 私は初めて ゆらゆら ゆらゆらと ロッキングチェアーを激しく揺さぶった 母の呼吸は止まっていた
恩讐 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1089.6
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-05-01
コメント日時 2017-06-03
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
題名の「恩讐」の意味を調べました。恩義とうらみ、情けとあだ。割り切れない感情ですね。 詩中主体も母親を仇とも恩とも定められない、それこそゆらゆらした関係を続けています。そこに個人としての自立は(双方共に)無く、共依存してすがりあって生きていきます。だから絶望的では無いんですよね、決して幸せではないのですが。不安定な繋がりがかえって二人の仲を強固にしている。詩中に東京オリンピックが出てきますがそれは全く二人の間には干渉してこない。共依存は閉じられた空間のんですよね。
0朝顔さま、御作にコメントさせて頂きます。 ゆらゆら ゆらゆらと という、やわらかい表現。アルコール依存症の母親との記憶。想い出というにはさみしく、つらい出来事。 ゆらゆら、から一転、母親のロッキングチェアーを激しくゆさぶってしまう。恩讐という言葉の重みを最後の連に感じました。
0皆さま、まとめレスにて失礼します。 母親との密室的関係性の苦しみを、直截に読み取ってくださりありがたいです。確かに、後半を直している時にはやり切った感がありました。 追記。実力者と言われましたのは嬉しかったですが、一方で些か恥ずかしいです。・・・ここ、ビーレビューはフェアプレイの場だと考えています。 初心者とか、長く書いているとかあまり詩の本質には関係ないと個人的には思うので。
0心をつかまれました。お母さんと、赤ちゃんの対比における、心の析出のしかたが、絶妙です。これは、一気に作り出されるようにしか、 書かれないような書き方だと思いました。僕は、どうしても、人格形成という視点で見てしまうのですが、この詩の良さは、 僕のような境遇の人間ではなく、もっと孤独な辛い子供時代を送った人にとって見れば、すごく救いを見出すのじゃないかな、 と思います。その作者・読者の関係があるのを、想像するだけでも、僕はそうやって、感動しました。ちょうど兄に子供が出来て、 その子の表情や行動を見ていることもあり、この詩の子供とお母さんの、美しさと言えるようなもの、安らぎと我慢と気使いの、 生き方というもの、そういったものが、働きかけて来ました。
0黒髪様 レス遅くなり申し訳ございません。そうなんです。この作品では、初めて「見えない読者」の存在を意識しました。 それまでは、恥ずかしながら一人で怒鳴っている部分があったんですけれども。 どんな関係性にも、醜さと美しさが共存しているんだと。黒髪さんのコメントで、そう感じることができてほっとしました。
0とても良い作品だと思ったので、細かいですが、気になったことを書きますね。 「恐らくは悪阻の度に アルコホルで痛みを誤魔化していたのであろう」 大人になった「私」が、母の辛さを理解し、包み込むように受容している、とても印象に残る推察だと思うのですが、悪阻(つわり)であれば痛みよりも痛苦、悪寒、などで、陣痛ならば痛み、なのでは?と思います。 「ゆらゆらとしたアルコホルのかほりがした」通常なら、ゆらゆらとアルコホルの・・・となるのでしょう。~とした、~がした、と脚韻を踏むような肌なじみの良い語感ですが、「ほ」の音を際立たせるなら、むしろ、ゆらゆらとアルコホルの・・・と持って行った方が良いようにも感じます。 それから、アルコホル、かほり、この表現が、セピア色のトーンを重ねるような独特のニュアンスを醸し出していて、個人的にとても好きです。 でも、それならば、なぜウヰスキイ、にしないのか、とか、促音の「つ」はどうする?とか、「言ふ」「あらう」になるんじゃないか、とか(旧仮名に詳しくないので、自信ないですが・・・)もちろん、かほり、アルコホル、だけ、あえて固有名詞のように「ほ」を用いる、という方法もあるかと思いますので、そのあたりはあまり厳密に考える必要はないとも言えますが。 「無常に流れ」ここも、もしかしたら「無情に」なのではないか?とか・・・ 説明的な、直截な表現が多い、という印象はありますが、あえて、淡々と「報告」するように綴り、その歳月をまたぐ叙述を「ゆらゆらと」という語感とイメージでつないでいく。全体が水の中に揺蕩っているような、不思議な揺らめき感の中で展開していくところが素敵だと思いました。
0まりもさん ありがとうございます。自分、妊娠の経験がないんで、そこまで理解していませんでした。 後、旧仮名の使い方ですが、確かに中途半端というより部分的なんですよ。ウヰスキイ、までやるとちょっとあざといかも知れないなと思いましたが、 無常に・・・というよりここは確かに無情に、ですね。これは直した方が良い。 こういう細かい部分を、丁寧に指摘して頂けるのが本当は、作者的には一番助かります。まりもさんの読み込みは丁寧だなと改めて感じ入りました。
0こんにちは とても印象的な作品です。 一遍の詩に人生が凝縮しているように感じられます。 この一遍の詩が そのまま人生がゆらいでいるかのように 人生の陰を感じさせる波がこの詩には ゆらいでいる。 随所にある揺れが、物語の全体に ながれおり、 個人的には鉄拳さんの「振り子」の動画作品のような 詩ではない別表現もあってもおかしくはないのではないかと夢想しました。 全然関係ない次元の話になりますが、今朝朝ドラ(ひよっこ)をみておりましたら 時代背景が東京オリンピックの翌年の終わりごろでした。高度成長期、唯一の不況の年だったそうです。 あのころに大人だった人々は、オリンピックの大騒ぎと、そのあとの祭りの跡のような不況あったので、世の中自体も うねりがあったのかもしれません。 題名に匠を感じます。この題名だけで幸福と不幸はあざなう縄のようだったのだろうなあと思いました。ただ、この詩には恩だを感じさせる部分が ないので、 無常と 無情のどちらかが この詩にふさわしい漢字は「無常」だと思いました。 題名にもし「恩」の字がなれれば、ぶしつけな言い方で申し訳ないのですが、 事件現場みたいな終わり方の表現だと、思いました。 でも、たった一遍の詩で 人生を読者に感じさせるとは、 すごい詩です。びっくりいたしました。
0るるりらさん、遅レスになってすみません。 とても内容に踏み込んだご感想、ありがとうございます。 そうですね。・・・ここに、東京オリンピック(まためぐって来る訳ですが)の描写を入れましたのは、かなり意図的にやりました。 なんだろう。あとこれね、ネタバレしますと矢沢永吉の「UP TO YOU」のMVの情景に多少の影響を受けておりますね。 映像的な詩であると思います、確かにたぶんに。 ・・・結局、国を挙げての祭りが来るけれども、この家庭の内情はどんどん病んだ狂った方向へ流れていくわけですよ。 それを書きたかったのです。 それから、「無情」か「無常」かというお話しですが。 一般的な母親を持った方からすると、感覚的に無情がぴったりくるだろうと思うんですよ。でもね、るるりらさんの仰る通り、 この主人公は本当に自分の感情その他すべてを押し殺して、この狂ったひと(母親)の介護に徹している訳です。尼僧のように。 だから、「無常」でもよかったかなぁと思います。 ありがとうございました。
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