太陽の縊死体、白昼に揺れる網膜
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いちごみるく色のマフラー
《線香花火パチパチてんてんてんポト。蝉が鳴いていたのに、地面に落ちて、ピクリとも動かない。完成して、一気だけの瞬間に馳せて爆ぜて、しまう。極彩色もやがて透けて、しまう。ねぇ、これからをどうする？》 死ぬまでお母さんは入院していく。いちごみるく色の毛糸を編み棒に絡め編む、あむ。お母さんが優しく産み出したモノを一つ、取り出す。魔女のローブと私が呼んだ事をいたく気に入って、笑いながら、何もいわず着て振り返ったお母さんは、とても幼く見えた。少女のえみ。らんざつに組まれた色が今でもちかちかしている。世界でただ一つのローブ。私には価値がある。 ｢あの木に猿が居るよ！｣ ｢･･････｣ ｢あ、猿がりんご投げてきた。冷たい｣ ｢大丈夫？｣ ｢うふふ。りんごがいっぱい｣ 《がんじがらめに絡みほとけない、いとは凝固した。いとが顕熱していても、灘らかなお母さん》 あなたにはお母さんとの思い出のモノはありますか？あたたかなモノも持ってるでしょう。 《きず。星空に伸ばした手。満月が透明な水に映って触れた感触。水彩絵の具で描いた黄色の太陽。サンタクロースの正体を知る。んをWと書いた。あいうえお、ミミズが這ったような古代文字。笑ってみテる》 ｢頭にウジがいる取って？｣ 見当たらず、伸ばした手で触れる。 ｢取れてない。ウジが増えていく｣ ふぅっと息を吹きかけた。 ｢あれ？ウジが蝶々になった。可愛い｣ 笑顔のまんまイて。 遺伝しない器用さで編む。手触りの感覚に頼って、ふわもこさせて、編む、あむ。下唇を噛む癖がお母さんから貰った遺伝。集中してる時は無防備じゃない。ぶちゃいく、不細工。掘り出される思い出は、何時も硝子の粒。私の海は硝子の粒で、できているの。砂浜はないよ。私だけの海がどんな色とか、想像しても良いけれど、私は答えられないの。 あなたにとってお母さんはどんな人ですか？がんじがらめだけではなかったでしょう。 《きず(づ)く。刺さる視線はやがて嘲笑に育って、数え切れない程の誰かが、死ぬまで、木霊していくのかもしれない。明け暮れても絶対零度なんて暖かいわ。たまに荒む硝子の海をじっと見る。ポツリポツリ胸に溜める硝子の粒》 硝子の海に投げ入れた手紙の、一節に。産まれてきてごめんなさいが。載っている。 ｢ねぇ、子供できたかも？｣ 私はお母さんのお腹に手をあて耳をつける。 ｢うふふ。お姉さんになれるね｣ 私は上手に笑えているかな。私を産んでしまったせいで、お母さんの、病気が悪化した。産んだ後、徐々に脳が消えていって。五割残ってる。七割回復すれば良い方。 《がんじがらめな暗黙のいと。決して。ほといてはいけない。月も星も太陽も無い、夜中さえも明るすぎる》 お母さんが好きだと言った色は色々。その中にいちごみるく色がある。私も欲しいとは言っていないのに。持ってきた靴下はやっぱり、編まれている。私はピンクではなく、あの色がいいの。とも言えず。とてもあたたかかいよ。今、靴下は眠っている。起こす事もできずに、ただ眺めては、あむ。これから、いとを、ウミ、編むよ。届けるよ。凌げるモノを。 あなたは物じゃなくてもお母さんから、沢山貰ったとおもうの。私は貰ったよ。揺るがないモノ。 《きず(づ)いて。於いていく、くらいなら、殺そうかと、包丁をふるふる握ると。笑顔。撫でる手。抱き締められた感触。温もり。守り育ててくれた。産んでくれた。繋いできた日々が》 ｢どうしたの･･･その怪我。髪が茶色よ｣ その日から黒染めスプレーを使う。 ｢よかった。痛かったでしょう？｣ 私は笑えているかな。 ｢ありがとう｣ お母さんの誕生日の前に完成した。ぶちゃいくな、いちごみるく色のマフラーを持って、お母さんの居る精神病棟の隔離室にトテトテと向かう。お母さんが言う言語は日本語だけど、人からすると、変、可笑しいらしい。私は、お母さんの言語はあまりわからないけれど、ずっと変わらない。おもい。声が、聞けるかどうかという事に集中する。あの日、お母さんがただ宙を見上げていて、声をかけても、なんの答えも返ってこなかった日。もうすぐお迎えがくるのかと、あむ。破いたり切り刻んでは。いけない。生かすの。 あなたがお母さんから貰ったモノをあなたはどうオモイますか？ 《きず(づ)いてく。定位置は譲らない。偏見はダイヤモンドよりも硬い。それでも。これからを繋いでいく》 今日もただ宙を見上げている。そこに何があるの。もしかして苦しいの。ねぇ、可笑しいとか言わないから、声だけでも聞か、あむ。動かないお母さんにぶちゃいくな、いちごみるく色のマフラーを巻く。お母さんの体温と手の感覚を真似て。病室を一杯に埋めるｱﾞｱﾞｱﾞｱﾞｱﾞと発せられた声で、お母さんの顔を見ると、声を発する事なく、私にだけわかる言葉を、口だけ動かしパクパクする。伝えられる言葉はしてき。私以外はわからない。 《編み目の数を数えながら、まばゆく、縷縷、流々》 お母さんとあなたにしかわからない事ってありますか？そっと、かんじてみつめて、くるむように。誰にも見えないようにそぅっと。 《かえす。正しさが全てではない。返せるモノは、少ないとおもい、引き締める。何時かを見ている。スタート地点の手前で、不可能でも繋げていく。しまう。まで》 ぐるぐる。ｱﾞｱﾞｱﾞｱﾞｱﾞしてきな音。感情、記憶の全てを核爆発させたみたい、だけど。わからない。でも、私だけがわかる、お母さんの言葉がまた一つ。硝子の粒になった。 《頭を振り子。お母さんの詩も。がんじがらめに絡まったいと。ほといて。たんたんと。もくもくと。あむ。うつろわない》 お母さんと代われるものなら、代わりたいけれど、病院に入院する事を決定させた、私に最後に告げた。言葉が何時までも胸に刺さっている。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ただでさえ、ちいさい自分の身体を、まるめてちいさくし、自分さえも恐れて、守るように自分を抱き締めて、下を向き、繰り返される。何かに追われているような張り詰めた お お き な 叫びを聞いて。抱き締めた。震えてるのは、私なのかな。 《失わないのではなく。失ってはいけない》 もしも、あなたのお母さんが私のお母さんと似たような人だったら、くるむように抱き締めて、背をなでて、大丈夫と繰り返してほしいです。 《なみ。留まる事を知らない嵩。宇宙膨張したいな。誇張し過ぎて笑う》 平穏な日々はなかったとは、私はおもわない。父という悪魔が居た事以外。ギャンブル、酒、煙草、女、暴力。死ぬまで苦しんで死ね。悪魔に流す涙なんて、持ってない。庇われる事の意味を知り、お母さんの前に立ったあの日。お母さんは私を突き飛ばした。どうして自分が病気なのに、ねぇ。どうして。 《てんかんされて、融解する前に硝子の粒をそっと、しまう》 もしも、あなたのお父さんがお母さんに暴力をふるっていたら、警察に通報してください。手遅れになる前に。 《おと。｢あれはなぁに？｣｢お星様よ｣明るい笑い声。音階すら無視した鼻歌、オリジナル。まな板トントン。鍋のグツグツ。歩幅に合わせてくれた、とてとて》 夕暮れ時、お母さんの柔らかく暖かい手が、私の手を覆い、商店街を歩く。何もかもが お お き く 見えるちいさな私は何処に行くのかわからない。お母さんの表情は固く、下唇を噛んでいる。海が夕暮れに染まっている。ザザーんという波の音がしてる。 ｢つきみ、いっしょに･･････しのう｣ お母さんのよわよわしい。くらい、こえ。私は、し、の意味がわからず、母に笑いかける。お母さんが崩れ落ちるように座り、何故泣くのか私には、わからなかった。ごめんなさい。震える声で繰り返される言葉の意味も、わからなかった。 もしも、あなたのお母さんが一緒に死のうと言ったのなら、あなたのオモイをぶつけるのではなく、お母さんが昔。なでてくれたように。言葉で接してください。 《きらめく。秘密にしとく》 私はポツリポツリお母さんの言語を。あむ。お母さんには白が似合うのに。どうして自分に似合わない色が好きなのだろう。理屈よりも。あむ。ぶちゃいく。 《子供のように、はためく色々はカーテンのように》 繋いだ日々。美味しいご飯。産み出される優しいモノ。お母さんの色々な表情。仕草。匂い。会話や独り言。あむ。ごめんなさい。 どうして私をそんな目で見るの？どうして私のお母さんを可笑しい、変だと言うの？私もあなたもお母さんも。同じ人間だよ？見た目は違う。違う事を経験して、違う事をおもって、違う事を考える。でもね。同じ生きている人間だよ。もしも出会ってなかったら、知る事も無いけれど、聞いてほしい事があるの。 《ベット・ミドラーさんのThe Roseの和訳をあなたに知ってほしい》 私が月で、あなたが地球だとしたら、私とあなたは、お互いをどんな風に見るとおもう？近づいたり、離れたりするの。離れてる時は見えないの。他の人も見えるの。だから、見える事ってわかる事って。本当にゴクワズカだとおもわない？関わって嫌いな部分があるとするでしょう？どんな人なのかも気にならないとするでしょう？どんな人なのかって、そう簡単にわかる事なのかな？わからない事を知って変わる事もあるの。私も逃げる事あるよ。嫌いだって。でも、知らないとなんとも言えない。ね？お母さんが産み出した数え切れないモノを。貰ったように。 《ボブ・ディランさんの風に吹かれての和訳をあなたに知ってほしい》 忙しかったら、自分の事でいっぱいいっぱいなら、無理にとは言えないけれど。お願いがあるの。もしもあなたがアザだらけの子供を見つけたら、児童相談所に電話してほしいの。もしも夫婦の喧嘩で怪我をしていたら、警察に通報してほしいの。 《世界の何処かにいる、あなたの輪郭をなぞ る》 よかったら今度はあなたのお話を聞かせて。ね？
いちごみるく色のマフラー ポイントセクション
作品データ
Ｐ Ｖ 数 ： 1140.2
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ポイント数 ： 0
作成日時 2018-11-25
コメント日時 2018-11-25
| 項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
全体的に読んでいてしんどかったです。 《てんかんされて、融解する前に硝子の粒をそっと、しまう》 この箇所は好きでした。思い出のことでしょうかね。 一番気になった父の描写については、「父という悪魔が居た事以外。ギャンブル、酒、煙草、女、暴力。死ぬまで苦しんで死ね。」 の箇所で、苦しんで死ねと思うような描写が一つくらいあった方が詩の深みが出たような気がします。
0「苦しんで死ねと思うような描写」ではなく、苦しんで死ねと思わされた具体的な経験描写 のまちがいです。すみません。
0鬱海さん。初めまして宜しくお願い致します。作品へ初めての御言葉ありがとうございます。しんどいですよね(内容か文字数か分からないです)文字数が四千字以上です。《》の所も含めて、読み手の方が自由に想像してください。なので秘密です。父の描写を入れる事も考えたんですよ。というか入れたいんですが、入れれない理由があるんです、それは作品の説明に成るので言えません。言えるとしたら、入れる場合、内容が重たく成るのと、描写すると、もっと文字数が増えるんですよね。活字大好きさんには天国ですが、活字地獄に成っちゃいますね。鬱海さん、御言葉ありがとうございます。
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