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YOMENAI
35歳になっても結婚できないので、ネットで調べてよく当たると噂の占い師に相談しに行くことにした。そうしたら、どうやらわたしには独身の女性の霊がついているようで、その霊がわたしの結婚を邪魔しているらしい。運良くその後すぐに霊媒師さんを紹介してもらい、除霊イベントに参加させてもらえることになった。東京の多摩にある滝でそのイベントは行われ、わたしたち悪い霊に憑かれた人達はひたすら中央線を西に進み、自分の幸せのために滝へ直行した。 イベントに参加するのは20人くらいで、年齢も性別もみんなバラバラだった。駅からはバスに乗っていくのだけれどとても混んでいて、増便している様子だったが乗り切れない人もけっこういた。四十代の霊媒師さんは「滝のパワーを求めて、こんなにもたくさんの皆さんがいらっしゃるんですね。」と言う。ただ待っていても何もやることがないので、後ろに並んでいた20代の女の子と話すと、どうやら彼女の母が鬱病になってしまって、何とか元気になって欲しいと思ってここに来たらしい。前にいた50代の男性は、経営していた会社がうまくいかず倒産し、借金が大量に残ってしまって途方に暮れてここに来たという。「未来が読めたら良かったんだけどね。」とポツリと言い、左手にはめていた透明な数珠すがるように触っていた。 いろいろな人生があるんだなと思いながらバスに乗り、降りて10分ほど歩くと滝はすぐ見えてきた。払沢(ほっさわ)の滝は60メートル以上も上から落ちてくる滝で、まっすぐに落ちてくるその水の連なりは、一秒にも一年にも見え、その不思議な時間経過にはただただ見とれるしかなかった。目に見えない光をまとった水しぶきが頬に当たるたびに清らかな気分になり、遠かったけれどここまで来てよかったなと思えた。 その後、滝の目の前で除霊の儀式が行われた。霊媒師さんは私たちの前で呪文を大声で唱え始め、その瞬間、周りにいた人が一斉にサッと私たちを見た。たぶん、うらやましかったのだと思う。みんなみんな、霊に取り憑かれたような顔をしていたのだから。きっと明るい未来はすぐそこにやってくる。予感が確信に変わった瞬間、何だか肩のあたりが軽くなったような気がした。 ※ 塾で国語を教えているからという理由で、小説の公募作品の先行アルバイトをすることになった。時給八九〇円のその仕事は、公民館の会議室を一ヶ月間貸し切って、たった五人で一万通もの作品に目を通し、優秀作品をひとつ、佳作をいくつか選ぶというものだった。小さい頃から本は大好きで、隙あれば活字の世界に潜り込んでいた私にとってこの上ない最高の仕事かと思ったが、実際はそうでもなかった。 初日は百作を目標に読むということで、かなり気合いを入れて読み始めたが、「おっぱいとちんちん」みたいな卑猥な言葉がひたすら並ぶものだったり、「クソ、バカ、死ね」といった薄っぺらい悪口が連なっているものばかりだった。そのどれもが全くエッチじゃなかったし、どんな悪口にも傷つくことができなかった。そういうものを大量に読んでいると、どうして私はこんなつまらないものを読んでいるんだろう?みたいな気分にだんだんなってきて、時給八九〇円は割に合わないと思うようになってきた。他の選考委員も同じような気持ちのようで、ほとんどが五十代、六十代で、私たちは家に入れてもらえない犬みたいに、ひたすら下を向いてうなだれる他なかった。 ある日、長年選考委員を務めている六十代の男性が「老眼だし、こんな小さい字読めないんだよ!」と言って、大して読まずにひとつの作品を落選ボックスに投げ入れた。その場にいた全員の視線がそのボックスに一瞬集まり、けれどその後すぐに各自の手元に視線を移したのをわたしは見逃さなかった。確かに締め切りまで時間はかなり迫っていて、わたしたちはうなだれた犬から、マックの前に集まる鳩みたいな必死さに変わっていた。誰も彼に何も言わなかったし、というより、その後わたしたちは何の一言も発することなくその日の仕事を終えた。片付けはわたしの担当だったから、どんな小さい字だったんだろうと興味本位でその作品を探したら、確かにものすごく小さな手書きの字で書かれた作品が出てきた。本当は良い作品だったのかもしれないという気持ちがほんの少しあって、本当はいけないのだけれど、他の委員に隠れて家に持ち帰って読んでみることにした。 お風呂上がりに読んでみるとそれは小説ではなく、俳優の菅田将暉へのファンレターで、ところどころなぜか元彼への未練がダラダラと書かれている日記のようなものだった。これは落選だ。すごく残念な気持ちになって、でも捨てることも何だかできずに、とりあえずクレジットカードの請求書と一緒に入れておくことにした。その三ヶ月後、優秀作品や佳作が発表されたはずなのだが、どういう作品だったか私は知らないし、たくさん読んだはずの作品は、もう何一つ覚えていないのだった。
YOMENAI ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1098.4
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-11-24
コメント日時 2018-11-29
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
沙一さん、初めまして。 読んでいただきありがとうございました。 いかに言葉あそびや比喩を使わずつまらない日常を他人に読ませるか という試みをずっと続けていたので とりあえず最後まで読んでいただけたとのこと、 ホッとしております。 内容についてはどうでもいいというか、 いかに中身のないものを長文として綴れるか みたいなところだったので掴みが〜と言われると、 わたしは本当にまだまだなんだなと思いました。 つまらない文章をお読みいただき、ありがとうございました。
0こんばんは。「嫁ない」(「読めない」)に一本。『菅田将暉くんへのファンレター』という過去作品をさらっともってくるところも好きです。
0>その三ヶ月後、優秀作品や佳作が発表されたはずなのだが、どういう作品だったか私は知らないし、たくさん読んだはずの作品は、もう何一つ覚えていないのだった。 YOMENAIに繋がるモノですね。作品を構築する際、長文で気を付けなければいけない。ポイントを無視した作品です。長文の場合、読み手が本題をどう解釈するかをしっかりと考えて長文にしないと、一語一句気を配らないと、長文全体が破綻します。作品の題名に帰結している部分が、上記に書いた部分以外では、強いモノを感じ取れません。まー私の読み方が悪いのかもしれませんので。申し訳ございません。
0蔀 県さん。 こんにちは。お読みいただきありがとうございました。 また、思いもがけず楽しんでいただいたようで嬉しく思いました。 まだまだ修行中ですので、もっと良い文章を書けるように努力いたします。 ありがとうございました。 沙一さん お返事ありがとうございます。 そのように言っていただいて、非常に恐縮しております。 これからももっと良い文章を目指して精進してまいります。 こちらこそ、よろしくお願いいたします。 花緒さん 花緒さんにコメントしていただけないかな、と思っていたので コメントをいただけて嬉しいです。 最後のご指摘、非常に耳が痛いというか、自分でも違和感を感じていた箇所でした。 なかなかこういうフィードバックは有難いものがあります。 ありがとうございました。 藤 一紀さん こんにちは。 前回(菅田将暉のです)、コメントをいただいていたのに、お返事できずにすみませんでした。 気がつくのが遅くて、今さらコメントをして上げてしまっても皆様に申し訳ないな と思ってのことでした。 菅田将暉のくだりは、気づいてくださる方はいらっしゃらないだろうな、 という自己満足な部分でしたので、少し嬉しく思いました。 お読みいただき、ありがとうございました。 つきみさん はじめまして。お読みいただきありがとうございました。 ご指摘の箇所はごもっともであり、そうするには前半部分の話を削り、 選考の話だけでもっと情緒的にまとめればそうなったでしょうね。 ただ、そういう作品は今までたくさん書いてきたので、ちょっと飽きていて、 ふたつの話をいかに一つの作品にするかということ、 そしてどちらもあまりYOMENAIに帰結せずに、ゆるく繋げて書けるかということ 強く帰結しないことで最終的に読者をYOMENAI状態にさせること が目的でしたので、 皆さんのコメントを見ると読めない状態になっている読者がいないことから 目論見は随分失敗したな、という気持ちでいます。 鋭い読みをしていただいて、本当にありがとうございました。 これからもよろしくお願いいたします。
0『菅田将暉くんへのファンレター』の大ファンなので、こちらの作品を読んで勝手に盛り上がってました。 こちらの作品も日常なのにどんどん読ませていくタイプの作品で、面白く読ませていただきました。しかしコメント欄に「で最終的に読者をYOMENAI状態にさせることが目的でしたので、」と書かれていたので驚きました。読みなすいなあ〜〜と思って読んでいたので。占い師のくだりなんかもとても面白かったです。なんとなくTRICKとか思い出しました。おもしろい読書?体験でした。
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