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績
老いた記憶と共に、老いた忘却は 埃臭い想い出すら引き留めてしまう。 ふと思い立って淹れた朝の珈琲に、 明星が吹き込む北風の下、ただ静謐を湛えた藍の空に、 蘇る影は夥しく、僕をじっと見ている。 そこにいると確信していた。 心を突き破るような確信があった。 確かにその時、 あなたの質量だけこの部屋の密度が高まった。 貴方の声がした。 貴方の影ができた。 鮮やかな、 青いワンピースを、 着ていた。 笑った姿が、 やけに密やかだった。 ……私が再び目を閉じてまた開けた時、 あなたは自らの身体を解いていたのだった。 そして随分と細く長くなった、 繊細で儚げなそれをこちらに寄越した。 あなたについて覚えていることはもうそれほどないと思っていたのに、 あなたから紡がれた糸の一本一本が私の心に縫い付けられるたびに、 あなたの歓喜が、あなたの悲哀が、 あなたの嫉妬が、あなたの願望が、 畦道に咲いていた赤い花よりずっと鮮明な感情となって私を染め上げていった。 あなたの私に関する複雑の全てがやがて私の心臓をすっかり縫い上げてしまったとき、 あなたはどこにも居なくなってしまった。 空虚な亡骸のようなワンピースと、 白くなった街、それに私だけが残った。 忘却は私よりもずっと早く老いてしまったと。
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作品データ
P V 数 : 832.3
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-11-13
コメント日時 2018-11-14
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
〈確かにその時、/あなたの質量だけこの部屋の密度が高まった。〉 ここから先が、とても良いと思いました。 前半、息を一定量に調整したまま、低空飛行を続けるような感じ、といえばいいのか・・・ 漢語が多いこと、説明的な描写が多いことで、導入が重くなっているように感じます。 まだ藍の濃い空、白く輝く明け残りの明星。北風が吹きこむのにも構わず、あえて窓を開けて、コーヒーを入れる。 珈琲、でなくてはいけない理由、があるのかもしれませんが・・・この、朝の景を、どのように表すか。 即物的に、さらりと書いてしまった方が、後半の幻想景との対比が出るような印象も持ちました。
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