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工場午睡
果物農家の放した蜜蜂が山茶花の生け垣を越え 襲来している昼休み 陽のあたるベンチに腰掛けた老工が 彼らの数を数えている 数えられた一匹が空を差す彼の手の甲にとまる 気づかぬのか気にしないのかわからない様子で あれはもう致死量だね、と 喫煙所で隣の女がわらう 琥珀色の蜜がとろりと注いでいるのではないか 老人とベンチは何万年かが経たのちに 化石のように発掘されるのだろう そんな空想も更けゆく秋のせいにしてしまえば 枯葉も愛を語りだすだろう タバコの煙の行方は いつでも 帰る家の方に流れていく そこには昨晩またヒステリイを起こしてしまった妻が 布団にくるまり全てを 更けゆく秋のせいにしているのかもしれない 機械に油を差しておかねば 妻の歯車はよく回るのにバネは弛んでしまったのかと ふと昨晩のことを思い返す あなたは機械じゃないのよ でも俺は機械工だよ 答えにならぬ答えが妻のネジを軋ませてしまったのか 椅子に倚る 少し うとうとして 蜜蜂よ 秋は折れ曲がっている、その指から手首から肘から 秋は記憶を失い置き去りにした帽子が道路に飛ばされて何度でもトラックに轢かれている 秋は花の名を知らない、蜜蜂よ、秋を彩るのはただ経血の赤ばかりではないか 秋は暮れる 秋は血を流す 蜜蜂よ 秋は大樹に倚り お前の羽を毟っているのではあるまいか 少し うとうとして
工場午睡 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1272.7
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-11-11
コメント日時 2018-11-13
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
スペインの片田舎の情景。なぜかそんな情景を想い起こしました。この作品は洋風でエレガントなんですよね。感覚的な感想で申し訳ないが。僕個人としてはこの詩の核心には迫れなかった。それは筆者様及び作品のせいではなく、ひとえに今現在「砕けた詩世界」「生身の体を感じる詩世界」を志向している僕自身に原因があるのだと思う。筆者様が書籍の世界にいて、美しい象牙の塔にいて、僕はボロボロの現実世界にいるという印象。ヒステリイ起こしてしまった妻が…の下りはとても僕好みでした。この作品は品格と優雅さという点で多くの方に好まれると思います。
0けいせいさんこんばんは。けいせい組鉄砲玉として遅参ですが馳せ参じまいりました。 ご感想嬉しく賜りました。もしかしたらスペインというのはビクトル・エリセとか好きなのかな、と想像してました。 ただ、僕は肉体労働者で、まさに昼休みのあの身体も疲れ果てて脳が程よく弛緩している時に空想したものだったので、そう読まれてしまったことには僕の力不足を感じます。 機械の油に塗れながら、 芦野
0純粋に綺麗な日本語に頭があがりません。もう職人さんみたいな技巧というか言葉の使い方、選択が絶妙で繊細な日本語らしい美しい作品だと思いました!素晴らしいです!
0enokizさんこんばんは お読みくださりありがとうございます。褒めすぎだと思いますが素直に感謝申し上げます。 題材があまり綺麗なものではなかったので、せめて体裁だけでも、と取り繕ったところはもしかしたらあったかもしれませんね。 重ねてありがとうございました。 芦野
0日常的な風景のなかでふと、現れる不思議な感慨のような二連目が印象的でした。まさに琥珀の中の何万年前かの泡を見るようです。言葉の巧みさに憧れすら抱きます。でも何より、惹かれたのは妻との噛み合わない会話に強く現実を感じて詩、全体が素晴らしく輝いて見えました。
0帆場蔵人さんこんばんは とても良いようにお読みくださりありがたく思いました。 少し、冒頭と妻との場面との接続が悪いように自分では思っていたので、そのように仰っていただき、少しだけ許せるような心持になりますね。 地を這う亀を書くために、淀んだ曇天を描く、みたいな、少しうまく言えませんが、そういう迂遠さを、と思っておりましたので、全体としてそれが帆場さんの読みのうちに結実していたら嬉しいな、と。 お読みくださりありがとうございます。 芦野
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