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十億年
きみを抱きしめるたびに、きみと死別する瞬間を想像するのはわたしの性癖か、きみが空に溺れる、その瞬間が脳裏をちらついて消えないから、きみに会うのはとても嬉しいし、とても哀しい。 あなたは死なないのよ、昔ママにそう言われて、なるほどそうかと頷いた。 人はいつか死ぬのよ、そう言いながら未来を見ている人がいるのを知っていて、本当にばかなんじゃないのかと思っていたあの頃、わたしは自分が死ぬことを信じすぎていた、 きみが死ぬ、その瞬間を想像する権利が保障されることばかりが嬉しいのに、わたしには命がない、だから、わたしの最も美しい瞬間は永遠に訪れないし、わたしはきみが帰って来るのを待つしかない、それが悲しくて、今日はケーキも食べたくない。 昼の酩酊に身を委ねるとき、いつも少しだけ死ぬことができる。きみがうらやましいよ、白日の明かりをカーテンで殺して夜を作る、この中でだけ、わたしはきみと一つになれる、なれるのに、きみはまた、遠くをいくんだ。 わたしはきみになりたかったのかもしれない、草のない砂漠と、美しい星空と柊の傍、きみ、それさえあれば、十億年なんてどうともなかったんだ。 うすら眼でカーテンの隙間から外を見た、月が碧いままの放課後、東の空に最初の夜が滲む。 十億年、きみの帰りを待つ。 11/5
十億年 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1024.4
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投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-11-05
コメント日時 2018-11-07
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
永遠の生命を望みながら、実際には「幸福な瞬間」が続くことを願うのであって、ただ無為に生き続けることを願うのではない、ということ・・・そして、「幸福」は、失われるものだと自覚しているがゆえに、輝いて見える、かけがえのないものとして認知される、という絶対的な矛盾。 流れるような美しい文章で、時に極端な虚構に振ることで「きみ」への恋慕の切なさ、一時の陶酔への憧憬を歌う。 散文ですが、リアルな室内から心象の風景に瞬時に、しかも、自然に飛ぶなど、コンパクトに凝縮された佳品だと思いました。
0悠久の時間性と、存在そのものへの本源的な悲しみを、今、生きているこの日常的な瞬間のリアルな知覚、真情として表現する作者の手腕は見事なものです。世界観、リリシズムの質にも大変共感します。 >それが悲しくて、今日はケーキも食べたくない。 とくにこの一節には唸らされました。単なるセンスの良さではない、人間の真情をこのようなやり方で新鮮に提示できる智慧深さ。詩行はこうでなくては、と思います。 それだけに、第一連の入りがどういうわけか、ひらめきに欠けた、いささか凡庸な理屈語りに聞こえるのは残念でした。書き出しはどんな作品でも難しいものですが、二連以降の見事さからして、この作者であればもっともっと魅力的な導入ができるのでは、と。本当にいい詩なので、かなり悔しい。
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